- 目的
- ソエマツ岳南西面直登沢遡行
- 日程
- 2006年08月12日(土) - 15日(火)
- 山域
- 南日高
今回、おやぶんと沢に行くのは2年ぶり、日高の沢を遡行するのは一八二三峰南面直登沢溯行時以来実に12年ぶりだ。今回は短い日程ながらもソエマツ岳南西面直登沢、中ノ岳ノ沢と超難渓を2本という実に贅沢な、いや無謀な計画だ。まぁ、どこまで行けるか分からないが、滝や函と戯れてこよう。
行程
予定
結果
- 2006-08-12
- 千歳空港(11:00)~ソエマツ林道(15:15)~ソエマツ沢~ピリカヌプリ北西面直登沢出合(18:05) C1
- 2006-08-13
- C1~ソエマツ岳南西面直登沢~ Co980 滝間(10h) C2bv
- 2006-08-14
- C2~ソエマツ岳(5h)~ソエマツ岳北面直登沢~ルートルオマップ川奥二股(4h) C3
- 2006-08-15
- C3~神威岳北東面直登沢~神威岳(6h)~ニシュオマナイコース~神威山荘(3h) 下山 hich~ソエマツ林道入口
メンバー
装備
- φ8.0mm×30mツインロープ×2本
- スーパーツェルト
- ライフジャケット
- シャワークライムパック(ふ)
- シャワークライムパック50(お)
- ラープ
- ナッツ
- アングルハーケン等
2006年08月12日(土) ソエマツ林道~ピリカヌプリ北西面直登沢出合
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
11:10 | 千歳空港 | 出発 | |
14:30 | ソエマツ林道入口 | ||
15:15 | 晴 | 出発 | |
16:45 | 雨 | おやぶん着替える | |
18:05 | 曇 | ピリカヌプリ北西面直登沢出合 | C1 |
アプローチ
千歳空港へおやぶんを迎えに行く。駐車場に車を置き、到着ロビーにいく。飛行機はちょうど今到着したところのようだ。15分ほど待っておやぶんが出てきた。手荷物とザックの他、紙袋を一個持っている。ずいぶん大荷物だな。車に乗り込み、すぐにソエマツ林道に向けて出発する。沼ノ端から高速に乗るが、富川インターを出ると、国道235号線との交差点まで渋滞してなかなか前に進まない。この渋滞を脱出するのに15分ほどかかる。渋滞を脱出しても車の流れは悪い。さすがにお盆休みだけある。おやぶんが雨具などの装備を買いたいというので、静内のホーマックによる。近くのセブンイレブンで昼飯を買い、荻伏に急ぐ。計画書を提出するために荻伏の派出所に寄るが、誰も居ないので、計画書にメモを書いて置いて林道へ向かう。
ソエマツ林道
空港を出て約3時間半でソエマツ林道入口に到着した。予想はしていたが、お盆渋滞で少々予定より時間がかかってしまった。入口に車を停めてすぐに出発するつもりだったが、ギア類等をガチャガチャと選別し、パッキングをしているとなんだかんだで15時を過ぎてしまう。
ソエマツ林道の登りは応える。いつも二度と歩きたくないと思いつつ、今回で3回目だ。空模様は少しずつ雲が増えて曇模様なのに、汗はどんどん流れ体は渇いていく。林道は崩壊して車での通行は不能だと思っていたが、どうやらちゃんと整備して通行できるようにしてあるようだ。しかし、油断していると頭上からガラガラという音とともに石ころが降ってくる。思わず『逃げろ!』と声を上げる。怖いのでその先はヘルメットをつけて歩く。出だしからさい先が悪い。
沢の上流の方は雲に覆われ、どうやら雨が降っているようだ。ポンウラカワ川出合を過ぎて、ポツポツと雨粒が落ちてきたと思っていたら、あっという間に本降りになった。アプローチシューズを履いてきたおやぶんが慌てて渓流靴に履きかえ、ついでに沢用の衣類に着替える。それにしても、雨が降っているというのに暑い。これが先日までの猛暑の中の林道歩きだったら、きっと途中で日干しになっていたに違いない。
ソエマツ沢
ソエマツ沢は相変わらず広いゴーロの沢だ。一時土砂降りの雨で、増水が心配だったが全然問題ない。少しでも直登沢出合に近づいておきたいので、すたすたと歩き続ける。しかし、ピリカヌプリ北西面直登沢出合で18時となり、既に薄暗くなってきている。一応予定天場であるし、ここで時間切れと判断する。安全地帯には意外といい場所はなく、左岸の広い河原のヘリに天張るが、河原には水の流れた跡が縦横にあり安心は出来ない。まぁ、でも、雨はいつの間にか止んだし、この水量なら多少の雨ではここまでこないだろう。
とりあえずツェルトを建てて焚き火をつける。さっきまでの雨で木は少し湿っており、火がつきにくい。しょうがないのでメタを投入する。邪道だが、時間もないし構ってられない。晩飯を食ってるとあっという間に暗くなってきた。つい先日までこの時間帯はまだ明るかったのに。腹ごなしもかねてラテルネをつけて広い河原を歩き回って薪を集める。焚き火から少し離れると周囲は真っ暗だ。一晩分の薪を集め、おやぶんはツェルトに入り、私は焚き火の横でシュラフカバーに入る。
2006年08月13日(日) ソエマツ沢~Co980
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
03:30 | 快晴 | 起床 | |
04:45 | 出発 | ||
05:15 | ソエマツ岳南西面直登沢出合 | ||
08:20 | Co630 滝の下 | ||
10:25 | 晴 | Co700 二股 | |
11:55 | 曇 | Co900BP | |
14:50 | Co980 滝の間 | C1 |
ソエマツ沢本流
そんなつもりはないのだが、まるで遠足前の小学生のように、昨夜はほとんど一睡も出来ないまま焚き火の横で一晩を過ごした。空は夜半からよく晴れ、雲ひとつ無い月夜となった。
歩き始めるとすぐに広い河原は減り、小さな渓相となる。途中のゴルジュはセオリー通り、1つ目は右岸テラスをへつり、2つ目は右岸を高巻く。2つ目のゴルジュを過ぎるとすぐにソエマツ岳南西面直登沢の出合となる。ボケッとしていると通り過ぎてしまいそうな小さな沢だ。
ソエマツ岳南西面直登沢下流域
直登沢に入ってすぐの小さな釜滝は越えられそうだけど、いきなりこんな小さな滝で苦労するのも面倒なので、とりあえず右岸のテラスから高巻く(Co515)。しばらく小規模なゴルジュが続き、適当に中を行ったり、面倒な物はテラスから巻いたりして進んでいく。 Co540 付近には水に浸かってから這い上がり、つっぱりで越えていく所などもあって出だしはなかなか快適で楽しい。
Co550 の釜滝を通過すると、正面に全く手に負えそうにない直瀑が見えて緊張が走る。冷静になって地形図を見ると、左岸高巻きマークがついている。それにしてもこの遡行図はいったい何の記録を見ていつ書き写したものだろう。記憶にない。ま、いいや。見ると左岸にルンゼがあるので、そこからバイルを効かせてよじ登り、尾根を越えて滝の上に降りる(Co570-580直瀑)。
三段の滝
次の二段に見える滝は、右岸ルンゼからの高巻きかなという気がするが、とりあえず右岸からトラバースして一段目の上に乗る。二段目は直登は出来そうにない。右岸はカンテが登れそうに見えるが、少しかぶり気味だ。左岸は手の届く距離にテラスがあるが、ツルツルで自力では上がれそうにない。やっぱり戻って高巻きかなと思っていると、おやぶんも上がってきてしまった。そして何を血迷ったか、ショルダーで左岸テラスに乗っかり、おやぶんはゴボウで引っ張り上げてしまう。しかし、テラスに上がったところで突破できる見通しはないのだが。悪名高いソエマツ沢の核心に入ったことで少し冷静さを欠いていたかも知れない。ダメだと思った時点で戻るべきだったのだが、なんとなく来ちゃった物は仕方ないという感じで突入していく。
テラスからロープをつけてとりあえず上に向けて攀じり始める。潅木で1つ目のピンをとってから左にトラバースするが、2本目のピンがなかなか打てない。ビレーをしての登攀は久しぶりなので、どうも手際が悪い。刺さらないハーケンをカンカンやっているうちに、下に落っことしてしまう。安心できるピンをとることは出来ない。当初は上へ向かって乗っ越すつもりだったが、左を見ると、滝の脇のテラスが進めそうだ。微妙な傾斜の側壁をトラバースして左に進む。怪しげな潅木にピンをとって、テラスを這いつくばって2段目の上に乗る。滝の上は釜となって右に曲がり、樋状の3段目が隠れていた。
左岸側壁のカンテが登れそうに見えたので、とりあえずおやぶんを引き上げる。そのままおやぶんにカンテに取り付かせるが、意外と被っており、取り付けないようである。困った。チムニーでなら突破できるかと思い、試しに直登を試みるが、傾斜がきつく、開いているうえにツルツルで空身でも突破は難しそうだ。右往左往して、右岸の悪そうな側壁を登ることにする。しかし、取り付きで不用意に足場にしていた、釜にひっかかっていた流木がすっぽ抜けてスリップし、しかもハンマーの紐が流木にひっかかり、流木とともに2段目の滝に引き込まれそうになってしまう。慌てて流木からロープを外すと、流木は2段目の滝壺に吸い込まれていった(汗。気を取り直してもう一度取り付く。足場から側壁をトラバースしてとりあえず右に向かう。微妙なトラバースだが、ピンは取れない。そこからルンゼ状を登るが、岩が猛烈に脆く、悪い。掴むホールドが次から次に抜けてくる(泣。こんな所にハーケンを打っても何の役にも立たない。苦し紛れにヘキセントリックをクラックに食い込ませ、何とか1つ目のピンとする。しかし、岩はほとんど浮いているので、ちゃんと効いているのかどうかは定かではない。ピンが取れて落ち着いて岩を見てみると、残置ハーケンが刺さっていた。さわってみると、スッと抜けて、周囲の岩が崩れた(汗。まぁ、いずれにしてもここを登った人はいるようだ。脆いルンゼをやけくそでよじ登り、左手の松に手を伸ばす。この松に2つ目のピンをとってようやく一安心だ。左上の急傾斜のブッシュをよじ登り、尾根の上に出る。上から反対側のルンゼをのぞき込むと、ものすごい急傾斜で、こっちを詰めたとしてもそう易々とは行きそうにはない。潅木帯をトラバースして滝の上に出る。このわずかな区間を通過するのに1時間半を要した(Co595-605/三段)。
割れ目
沢に戻っても一息つくことはなく、中級のゴルジュが続き、泳いでからつっぱりで這い上がったりして進む。チョックストンの滝は手に負えそうにないので、右岸を高巻く(Co605-625ゴルジュ)。この高巻きを終えて沢に降りると、ようやく休憩できそうな河原があって日も差してきたので一息つく。
続く滝は左岸を直登する。軽く直登できると思ってロープつけずに取り付いたが、失敗だった。最後の1歩が上がらない。よく見ると残置ハーケンが打ってあるので、セルフビレーをとって、ザックを右上のテラスに放り、空身でよじ登る。ザックを拾い、セルフビレーを解く。カンテをまたいで落ち口の水流に足を伸ばす。ツルツルのスラブ状で、水圧も強くものすごい微妙だが、思いきって対岸に移る。ピンをとってロープを垂らしておやぶんを引っ張り上げる(Co630-640)。
滑を進むと、細い細いV字の水路となっている。突き当たりの滝は行けそうにない雰囲気だが、とりあえず水路を進む。泳いでチョックストンを登る。更に続く樋状の滝はチムニーとジャミングで体を捩らせて攀じる。更に深い水路の先で右岸から滝が落ちてくるが、ツルツルでとうてい取り付けそうにない。絶壁に挟まれた狭い谷底から右岸の壁を見上げる。空身だったら登れそうな感じもするが、果てしなくハマりそうな予感がする。さっきの三段の滝の例もあるので、二の舞を演じないように戻って巻き直すことにする。ケツフリクションのつっぱりで樋状の滝をクライムダウンチョックストンは微妙で、チョックにぶら下がってスタンスを探していると、バランスを崩して釜にドボン。泳いで振り出しに戻る。出だしの右岸のルンゼを詰めて巻くことにして攀じっていく。しかし、このルンゼはボロボロに脆く、上に行くほど悪い。更に、簡単そうに見えた見えた上部のテラスは微妙な傾斜でろくなホールドはなさそうだ。一端下がり、ロープを出してルンゼ下部から草付きを右にトラバースして行くと、垂直に見えた壁の途中に通行できそうなテラスがある。潅木帯を進んで行くと、割とすんなり滝の上に出た(Co640-670山谷グラビアの滝・・・山谷ではロープをつけて進む写真ですが、中を突破しているんでしょうか?まさかね。)。沢見に戻っても、小さいものの直登できない滝が続くので、そのまま低く巻き続け、 Co700 二股に至る。
大高巻き
この二股付近ははガレに埋められている。沢幅も広く、ビバークも可能だ。ガレを進み Co730 を右に曲がると再びV字の沢になるが、次の屈曲点までは特に問題ない。 Co800 二股にはガチャガチャの雪渓があり、本流は大きなチョックストンの滝が行く手を阻んでいる。
右股から尾根に取り付き滝の上に出るが、本流は深く細い谷にいくつもの滝が架かり、とてもじゃないが降りられる雰囲気ではない。そのまま尾根筋を進んでいくと、自然と登りやすいルンゼ状に出てそこを登っていく。ある程度登ったところで、少し本流から離れすぎたようなので、左にトラバースして谷底が見えるところまで行くが、沢の中にはまだ悪そうな滝が続いている。いくつかの滝は楽しめるかもしれないが、結局は悪い高巻きの連続となりそうなので、沢に降りることは諦めてそのままブッシュを漕いで尾根筋を進んでいく。 Co895 屈曲点まで進み、潅木をつないで沢に降り立つ。
この河原は狭いが、そこそこ快適なビバークポイントになりそうだ。ここでビバークとすることも一瞬考えるが、少し時間が早すぎるし、 Co960 付近にもビバークポイントがあるという情報を得ていたので、もう少し先に進むことにする。
悪いトラバースの連続
出だしの滝はロープをつけて左岸のルンゼから越えていくが、やっぱり状態は悪い。ナッツはかからないしハーケンを打てば岩が崩れてくる。ラープで気休めのピンをとり滝の高さまで上がり、ランナウトしつつテラスを左へトラバースしていく。滝の上の潅木にアンカーをとっておやぶんを上げる(Co895-905直瀑)。
狭いV字の谷をつっぱりなどで進むと、S字に屈曲する樋状の滝がでてくる。滝の上からは濃い霧が漂ってくる。この雰囲気だとかなりでかい雪渓がありそうだ。右岸の泥付きを登り、効かないハーケンでピンをとり、右へトラバースしていく。滝の上に出るとその先には絶望的光景が広がっていた(Co930-940)。
雪渓帯
予定していたビバークポイントは巨大な雪渓に埋められていた。しかも雪渓の先端はペラペラになって宙に浮いている。とりあえず右岸の側壁をトラバースして1ピッチ進む。その先の雪渓は厚みもあって、比較的安定していそうである。ロープをしまい、軽アイゼンをつけて雪渓の上に上がる。この先の雪渓は状態が悪いとエラい苦労するということだったので、ドキドキしながら Co950 屈曲点まで行くと、比較的安定していそうな雪渓が突き当たりのルンゼまで続いている。しかし、この状態ではビバークポイントなど全くありそうにない。雪渓の上に泊まる選択肢もあるが、そんなのは絶対に嫌だ。とにかく行けるところまで行って、最悪膝を抱えて一晩を過ごすしかない。
雪渓に軽アイゼンを効かせてザクザク歩くと、右岸から悪そうな滝が落ちてくるのが見えてくる。ため息をつきながら滝の全体像が見えるところまで進むと、滝の足下にわずかながらツェルトを張れそうな河原が見える。雪渓から中間尾根のカンテに取り付き左股に降りる。雪渓の下にはもう一本大きな滝が隠れていた。この出合の滝と、2本目の滝の間のわずかなスペースであるが、次に泊まれそうな所が出てくるのはいつになるか分からないので、ここでビバークを決定する。
ビバーク
土木工事をして、でこぼこながらもようやく2人横になれるスペースを作る。決して快適とは言いがたいが、この際贅沢は言ってられない。周囲の枯れ木という枯れ木を全て集めて、メタで火をつける。小さいがそれなりの焚き火になった。落ち着くと割といい天場だ。少なくともピリカヌプリ南面直登沢で滝のしぶきを浴びながら寝た時に比べればはるかにすばらしい。今夜も意外と暖かいが、雪渓のすぐ横なので着られる物を全て着て寝る。ここは最後の核心の真っ只中。ピークはまだまだ遠い。
2006年08月14日(月) ビバークポイント~ソエマツ岳~ルートルオマップ川
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
04:00 | 快晴 | 起床 | |
05:50 | 出発 | ||
08:45 | Co1100 | ||
10:10 | 晴 | Co1400 | |
11:15 | 曇 | ソエマツ岳 | |
15:55 | ルートルオマップ川奥二股 | C3 |
日高らしい連瀑
今朝も天気はいい。昨夜は意外と気持ちよく寝ることが出来た。出発の準備をしていると、遠くの方からドドドンというものすごい音がする。おそらくどこかの雪渓が崩れたのだろう。
はじめの滝は右岸側壁から取り付き、右岸クラックを直登していく。落ち口近くでロープが一杯になったので、ハーケンをたたき込んでピッチを切る。おやぶんには途中から水流を直登させ、2ピッチ目は水流から、右岸テラスへ上がってトラバースして落ち口に出る(Co980-1010)。次の樋状の滝は右岸側壁から取り付き、右へトラバースする(Co1010-1020)。
1つ小さな樋状を直登すると、大きな滝が出てくる。水流下に斜めに走るクラックを頭からシャワーを浴びながら登り、そのままクラック沿いに右岸側壁へ進む。滝の高さでピッチを切り、微妙な傾斜のテラスをトラバースして滝の上に立つ(Co1030-80)。次のチムニーは右岸から取り付き、つっぱりやチョックを掴んで登る(Co1070-1080チムニー)。すぐに続く滝はロープをつけたままで右岸をノービレーで直登する(Co1080-1090)。というか、ここまでで三段かな?まぁいいや。この滝を終えると、沢はガレに覆われている。どうやら核心は越えたようだ。ピンをとるのに少し手こずったが、この区間は割と日高らしいすっきりとした登攀を楽しむことが出来た。
オヤジとの遭遇
ガレを進んでいくと、せまい函にグチャグチャの雪渓と今にも落ちそうなスノーブリッヂが見える。側壁は高く、とても巻けるような状況ではないので、下を行くしかない。1人ずつ一気に駆け抜け、ほっとして先に進もうと上を見ると、なにやら黒い物がモゾモゾと動いている。「あっ!」思わず声が出た。ヒグマだ。こちらに気が付いたヒグマは左岸のルンゼをものすごい勢いで駆け上がっていく。時々振り返ってはこちらをじっと見ている。こちらも驚いたが、それ以上に向こうは驚いたろう。
Co1290 二股の直登ルンゼはハングした滝となって合流しており、処理がめんどくさそうなので、そのまま本流を詰めてコルに出ることにする。細いルンゼ状の沢に小滝が現れるが、問題になる物は何もない。15分ほどハイマツと潅木のブッシュを漕いで主稜線に出た。更に20分ほど稜線を歩き、ようやくソエマツ岳に到着した。
ソエマツ岳からルートルオマップ川へ
それにしても酷い沢だった。多少手こずるだろうとは思っていたが、本当に1.5日もかかるとは。肉体的な疲労に加え、精神的なダメージも大きく、日程的にも厳しくなったため、この時点で中ノ岳ノ沢を諦め、神威岳北東面直登沢に変更を決めた。留守係をお願いした高橋さんにメールを送り、ルートルオマップ川へ下る。
ピークからブッシュに覆われた沢形を下り、 Co1500 付近で岩盤状の沢に出る。しばらくは岩盤の沢を快適にクライムダウンしていく。 Co1330 で怪しげな捨て縄を利用してラッペルをする。 Co1250-1270 の滝の下は Co1230 まで雪渓で覆われている。ラッペルで雪渓の高さまで降りて、雪渓の脇の側壁をトラバースする。 Co1230 の右股から雪渓をくぐる。
日高屈指の悪劣ガレ沢
更にいくつかの滝を降りていくと、 Co1150 付近は崩壊地となっている。その先の沢は凄まじいガレとなって延々と続く。今まで見たこともないような長くて広大な大ガレ原だ。しかも猛烈に不安定でやってられない。水は完全に涸れ、気温は高く、下りだというのに猛烈にバテる。 Co650 二股でようやく大きな水流が現れ一息つく。しかしその先もやはりガレ沢と言っていいだろう。
Co580 の岩マークから、ようやくゴルジュ状の沢になる。 Co570 の屈曲点にはすばらしい釜を持った滝があって飛び込みたいところだが、先日の札内川九ノ沢の事故が頭をよぎり、止めた。そこからすぐに奥二股に到着した。
12年前に来た時はもっと河原が広かったような気がするが、あの年はよっぽど渇水していたんだろうなぁ。左股左岸の河原に天張る。豊富な薪を集め、火をつける。風を送らなくても豪快に燃える。今夜も暑そうだ。
2006年08月15日(火) ルートルオマップ川~神威岳~神威山荘
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
04:00 | 曇 | 起床 | |
06:00 | 出発 | ||
09:50 | Co980 二股 | ||
12:35 | 霧 | 神威岳 | |
16:00 | 曇 | 神威山荘 | 下山 |
ゴルジュ帯
函状の河原を進んで右に曲がると、小さな釜滝を皮切りに楽しいゴルジュの始まりだ。左右のテラスには目もくれず、躊躇無く水線を進む。もちろん水に浸かり、シャワーを浴びて釜滝を登る。 Co560 の釜では泳いで右岸をよじ登る。その次の流木のかかった釜滝は一休みで右岸のテラスを越える。その後も小さな釜滝が断続する(Co545-580ゴルジュ)。
上部から冷たい霧が漂ってくる。これは雪渓があるなと思っていたら、案の定 Co600 付近がグチャグチャの雪渓に埋められていた。うんざりしながら上を通過すると、更にスノーブリッヂがかかっている。1人ずつ下を駆け抜ける。いくつかの小滝を通過し、 Co627 屈曲点の滝に出る。滝の上には今にも崩れ落ちそうなスノーブリッヂが架かっている。右岸のテラスに乗って雪渓の上をトラバースして通過する(Co627屈曲点の滝)。この滝の先は未だ「ザックの残骸」の残る、細い廊下の函滝だ。しかし、濃霧がかかり、上の様子はよく見えない。どうやらこの先にも大きな雪渓はありそうだ。とりあえずセオリー通り右岸のテラスを巻く(Co630-640函滝)。
次の右に屈曲している函滝は左岸のバンドをトラバースして行くが、最後のカンテがツルツルで水流に移れない。よく見ると、残置シュリンゲがかかっており、それを利用して振り子トラバースで滝の上に降りる(Co640-645函滝)。滝の上には長い廊下が続き、泳ぎとつっぱりで先に進む。突き当たりのツルツルの小滝を左岸から登ろうとしたら、妖怪ヌルヌルが付着して滑って越えられない。気を取り直して右岸に取り付く。しかし、こちらもヌルヌルで登れない。爪を立ててヌルヌルをこそげ落としてクリーニングし、フリクションを効かせてなんとか直登する(Co645-655廊下)。
近年、日高の沢で函の妖怪ヌルヌルが異常繁殖しているが、この美しかった沢も例外ではないようだ。そういえば、12年前に遡行した時よりずいぶん荒れた感じで、沢底には流倒木が多い。妖怪ヌルヌルの繁殖はこういうところにも関係があるのだろうか。
これを越えると、案の定沢は雪渓に埋められていた。左岸をトラバースして、雪渓の上に乗る。ここの雪渓は12年前の猛暑でも残っていただけあって、まだ安定している。雪渓の先は次の Co680 二股までは滑床になっている。そこから三たびゴルジュ状になって、中を通過していく。霧も晴れ、気温も上がってウキウキで進む。
連瀑帯
Co740 二股でゴルジュ帯は終わり、ここからは楽しい連瀑帯となる。出合の滝を皮切りに、全て快適に直登していく。ただ残念なのは妖怪ヌルヌルの存在だ。ほとんどは容易な小滝滑滝だが、適度に手応えのある滝も現れる。 Co920 の大滝は左岸を直登する。 Co980 二股には真ん中に穴があいた大きなスノーブリッヂがある。いやらしいが、下を駆け抜ける。次の大滝は、前回来た時は直登したはずだが、妖怪ヌルヌルがいやらしく、直登する気になれない。もったいないが右岸の潅木帯から高巻く(Co1000-1030大滝)。
ふと気が付くと、コンパスがどこにもない。どこかで休憩した時に落としてきてしまったようだ。前回、ポンヤで紛失したので、新しく購入してきたばかりなのに。ショック!
藪漕ぎ
この先は源頭までひたすら小滝の連続である。水が涸れそうなので Co1200 付近で水を汲むが、少々早かった。 Co1350 付近で源頭となってブッシュとガスの中へ突入していく。甲子園の駒苫の結果が聞きたくてラジオのスイッチを入れて歩く。なんだかものすごい展開だったらしい。駒苫野球部にはきっとなんかが憑いているに違いない。しばらく沢形は続き、そのうち踏み跡に突入する。コンパスを持っていないので、おやぶんに任せていたらピークから少し東側で主稜線に出た。あれ?西側に出るんじゃなかったっけ?っていうか、もうちょっと明瞭な踏み跡があったような。まぁ、たいした問題じゃないか。
下山
おやぶんは靴を履きかえ、私は渓流靴のままでバカ尾根を下る。地味に今山行で一番つらいかも知れない。ヘトヘトになりながらもみっちり3時間歩き、神威山荘に到着した。山荘の前で呆然としていると、途中で追い越したおじさんが降りてきたので、ソエマツ林道まで乗せてくれないかと交渉する。「急いでいるから」と、ちょっと迷惑そうだったが、事情を説明して了解を得る。ザックの中身を散乱させ、急いで乾いた物に着替え、乗せてもらう。車を回収して再び神威山荘に戻った。
新しい三石温泉で風呂に入り、静内の赤ひげでトンカツを食い、我が家へ帰り、しこたまビールを飲む。