幌尻沢は新版の「北海道の山と谷」には掲載されなくなった、忘れ去られた沢である。しかし、日高の最高峰幌尻岳の唯一の直登沢なので、一度は遡行しておかないと行けない。この沢の最大の問題は、長い林道のアプローチであるが、今回は戸蔦別川から山越えでアプローチすることにした。
行程
2009年09月17日(木)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
07:25 | 戸蔦別林道 | 出発 | |
08:25 | 快晴 | 戸蔦別川八ノ沢出合 | 入渓 |
09:25 | Co925 ゴルジュ | ||
10:25 | Co1175 | ||
13:35 | 七ツ沼カール | ||
14:35 | Co1215 | ||
16:50 | 新冠二股 | C1 |
昨夜はポロシリ自然公園で車中泊しようと思ったが、既にトイレは閉鎖されていた。仕方がないので、道の駅なかさつないまで足をのばすことになった。
今朝はもっと早く出かけるつもりだったが、なんだかだらだらしてしまって、結局出発は七時を過ぎてしまった。戸蔦別林道最終ゲートのある第六砂防堰堤前に車を残置し、自転車で林道を進む。最終砂防ダムを過ぎた当たりに自転車を残置して歩く。
八ノ沢出合で入渓する。空は素晴らしい秋晴れだ。十ノ沢出合までは右岸の踏み跡を主に使って進む。ゴルジュの下部までは魚影が確認出来た。 Co925 の滝を過ぎると魚影はなくなる。
戸蔦別岳北東面直登沢
三股を過ぎて真ん中の沢へ進む。ブタ沢の渓相で、倒木がうるさい。小滝をいくつか過ぎて、四段の滝が出てくる。この沢に来るのは二度目だが、この滝には見覚えがない。一段目には取り付けず、右岸から巻いて、二段目以降は直登する(Co1040-1080 四段)。
更に小滝、滑滝が続いているが全て問題なく直登していく。一つ目の滝記号の滝は、前回来た時もたいしたことはないという印象だったが、ここまでショボい滝だったか。適当に中を直登する(Co1170-1180)。この滝の上に出ると、戸蔦別岳とこれから登る予定の直登ルンゼがよく観察出来る。直登ルンゼは猛烈に急峻な崖に見える。
再び連瀑帯が始まる。はじめの滝はシャワークライムで登る(Co1190)。続く小滝群をどんどん通過する。最後の大滝は、前回は直登したらしいが、今日は全然登れる気がしない。左岸の草付きから取り付いてサクッと高巻いた(Co1270-1300)。
この滝を越えると Co1315 二股だ。実はここから先の読図がこの沢の核心だったりする。まずは右へ進む。いくつか小滝が続いて再び二股となる。左は涸れている。おそらくこれがコルへ上がる沢だろう。今日は直登ルンゼをめざすので右へ進む(Co1340 二股)。次の二股は左の方が水量が多い。よく見ると右から小沢が入り込んで三股となっている。地形図にはない沢の入り込みが多く、既に混乱状態。ここをコルへ向かう沢の分岐と見誤ってしまい、真ん中の沢へ進んでしまった。しかし、ここは左が正解だろう。沢は程なく涸れてしまった。
既に現在地は完全に見失っていた。周囲は笹藪に覆われて周囲の状況が分からない。こういう時は木に登って周囲を確認するのが一番。ダケカンバによじ登り、現在地を確認する。コンパスを切ってみると、右寄りに来ていたつもりが、左に来すぎている感じがする。もう少し進むと、沢形が消えてしまったので、藪を漕いで右の方へ進み、隣の沢形を探す。しかし、それらしき沢形が見つからないので、再びコンパスを切ってみると、やはり右に来すぎていることが分かる。さっきの読図はちょっとナニかが違ったらしい。
左に戻って出た沢形を詰めて少し藪を漕ぐと、草原に出た。典型的なすり鉢状のカール壁とカール底ではないが、ここが戸蔦別Aカールなのだろう。目前には直登ルンゼが見える。左を見ると、別の沢の源頭が見える。おそらくこれが登る予定だった沢で、先ほどの三股の左だろう。山の木々は紅く色づいてきている。今年の紅葉は綺麗だ。
直登ルンゼに突入する。急峻だが、それほど難しいというわけではない。少し脆いので慎重に進む。岩盤のルンゼが終わると、もの凄い急傾斜のお花畑に突入する。フェルトシューズではツルツル滑って、恐いし危ない。ここはバイルかアイゼンがほしい場面だった。ルンゼ以上に一歩一歩を慎重に進む。まっすぐ直登するのは不可能なので、トラバースしてハイマツのある稜線に逃げた。
途中で現在地を失ったロスはあったが、それでも前回より30分以上の時短となった。この沢は地形図にはない沢の入り込みがあって、正確な読図は困難だが、迷わずに行ければあと30分は早くなるだろう。
新冠川本流
ピークはあいにくガスに包まれ、周囲の展望はない。長居はせずさっさと七ツ沼に下る。フェルトでこの急な崖を下るのはつらい。出来ればカールには泊まりたくないが、既に疲れてフラフラなので、水さえ取れれば泊まってしまおうかと思っていたが、水はちょろちょろとして出ておらず、飲み水を確保するにはちょっと厳しい。予定通り下ることにする。どうせならポロシリ山荘まで行ってしまいたい。
沼はほとんど干上がっている。沼の中を歩いて沢へ下る。断続的に出てくる滑滝は問題なく通過する。 Co1250 付近には天張れそうな所はあるが、出来れば釣りをしたいのでもっと下をめざす。しかし、ここでおとなしく天張っていれば良かったと後悔することとなる。
幌尻東カール沢と合流する所からこの沢の核心が始まる。ここから下を下るのはもう三度目になるので、迷いはないが、相変わらずこの巨岩帯を処理するのは骨が折れる。正直、過去二回でこりごりしたはずなのに、何故またここを下ろうと思ったのだろう。だんだんと体力の限界が近づき、遡行図を取るのもイヤになってきた。
惰性で歩き続け、新冠二股で時間切れとなったのでここで天張ることにする。朝にだらだらしていたのが響いた。結局、焚き火をたいていたら日没となって、釣りをする暇もなかった。
2009年09月18日(金)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
05:00 | 起床 | ||
06:30 | 出発 | ||
08:00 | ポンベツ沢出合 | ||
08:35 | ポロシリ山荘 | C2 |
今日はポロシリ山荘までとする。ポンベツ沢出合まで、もっと余裕で下れると思っていたが、巨岩帯などもあって、意外と手こずった。途中で、先日札内ヒュッテでもらった毛針を使って釣りをしてみる。サクッと釣れた。とりあえず毛針でもイワナは釣れることは分かった。荷物になるのでここではリリースする。
しばらく行くと、何かの調査と思われる赤ペンキでのマーキングが出始める。ちょっと見苦しいが、調査なら仕方がない。しかし、更に進むと、仕方がないでは済まされない物が出てくる。 Co770 で滑滝を過ぎると、同じ赤ペンキで岩盤に「村上参上」と書かれていた。呆れて物が言えん。
ポンベツ沢出合が近づくと砂利の河原となる。出合を過ぎると、日があたり明るくなる。ダム湖は砂利の河原で、水流の中には緑の藻が付着し、ヘドロ臭がしている。そして、流木の墓場となっている。これを燃やしたら凄まじい焚き火になるだろう。いや、それは既に山火事か。
湖岸に上がると、そこは既に幌尻沢出合だった。幌尻沢は思っていたよりも更に小さな渓相の沢だ。倒木が多く、ブタ沢の様相だ。幌尻右沢出合を過ぎて、右岸に上がるとポロシリ山荘が見えた。
山荘には最近まで誰かが居た気配がある。山荘ノートを見ると、先週までは新冠大の地質研の人が居たらしい。地質研の人は調査だから来るまでこられるのだろう。外にはおとといが消費期限のおにぎりのゴミが捨ててあった。って、誰だよ。道は最近ブルが走った様な跡があるので、工事関係者だろうか?
ストーブに火を入れてから釣りへ向かう。もっと釣れるかと思ったが、意外とつれない。二時間ほどでエゾイワナ3尾とオショロコマ2尾をキープする。エゾイワナとオショロコマが両方釣れる沢ははじめてだ。この2種は両方とも昔からここに棲んでいるのだろうか。
2尾はストーブの上で塩焼きにする。正直イマイチだ。やはり直火で焼いた方がうまい。一番大きな尺イワナ(推定34cm)は三枚におろして刺身にする。誰かが残置していったしょう油を使わせてもらう。これは旨い。皮と骨をこんがり焼いて焼いて食べたらお腹が一杯になってしまった。
一眠りしていたら、キープしていた2匹は鍋から飛び出して逃げてしまっていた。この流しの排水溝は川まで続いているだろうか。
ふと気が付くと、コンパスがないことに気づく。確か、湖岸まではあったはずだ。ショックだ。しかし、今さら探しに行く気力はない。明日は勘で進むしかない。
2009年09月19日(土)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
04:00 | 起床 | ||
05:10 | 出発 | ||
05:50 | Co970 二股 | ||
09:15 | 幌尻岳 | ||
11:00 | 戸蔦別岳 | ||
12:25 | 戸蔦別Bカール | ||
13:30 | Co1260 | ||
14:30 | Co1060 | ||
16:00 | Co900 | C3 |
幌尻沢
今日は夜明け前に行動を開始する。 Co970 二股までは小屋の横から登山道が延びているが、あえて沢の中を行く。しかし、沢には何もなくただのブタ沢だ。ただ時間がかかるだけだった。二股は左の方が水量が多いが、直登沢の右へ進む。
直登沢に入ってもやっぱりブタ沢だ。しばらくは何も出てこず、 Co1200 を越えてようやく滝が見えてきた。一つ目の滝は左岸から直登する。ヌルヌルしていてイヤらしい。二つ目は登れそうに見えたが、ヌルヌルしているし、意外とのっぺりとしていて無理っぽい。右岸から巻くことにした。急な草付きで面倒だ。次の滝もまとめて巻いた方が良さそうだが、一端沢に降りる。左岸に取り付いて、途中まで登ってみるが、やっぱり無駄。もろにシャワーを浴びながら滝を横切ってから右岸を降りる。再び右岸草付きをよじ登って高巻く。更に次の滝を越えてから沢に降りた。
次の二段の滝は一段目を登ってから右岸を巻こうとしたが、ズルズル滑って悪い。これなら直登した方がマシだと、右岸を気合いで登る。やれば出来るじゃないか。しかし、水が冷たい。この連瀑帯は快適に登れる物は少なく、まとめて巻いた方が良いだろう。
再びブタ様相となって、小滝が断続する。 Co1600 で水は涸れる。涸れ滝の傍らでは伏流水が吹き出している。とても冷たい。徐々に開ける沢を詰める。源頭部の雰囲気はよいが、そこに至るまでのブタさ加減が甚だしい沢だった。これと言った藪漕ぎもなく、低いハイマツとお花畑を過ぎて山頂に到着する。
幌尻岳~戸蔦別岳
ピークには数人の登山客が居た。私が到着すると、みな下山を開始し、私一人になった。風が冷たいので、長居はせずに下山を開始する。
下り始めると、左膝裏に痛みを感じる。先日の記念別沢やコイボクの時にも感じた痛みだ。今回は更に酷い。一歩一歩に痛みが走る。テーピングをして応急処置を試みるが、あまり効果はない。誤魔化しつつ、ゆっくりと歩くしかない。この程度の稜線なら、一気に駆け抜ける所だが、一歩一歩ゆっくりと歩くしかない。
戸蔦別岳ではすっかりガスに包まれてしまった。コルからBカールに下るが、不安定なガレで怖い。Bカールの水源は豊富だ。整備された天場はなく、沢のほとりのお花畑の上に天張った跡がある。足の状態から言うと、ここらで泊まってしまいたいところだが、がんばって沢を下る。
戸蔦別川右股
下り始めると、水はすぐに伏流した。本流に出るまで安定したガレ沢が続く。 Co1340 で本流に出た。本流にある大きな滝には何となく見覚えがある。
滑滝をいくつか通過する。 Co1175 のゴルジュは右岸の巻き道を使って通過。続く大滝も右岸の巻き道を使って下る。更に小滝をいくつか通過。 Co1030 の滝も右岸に巻き道を使う。ここを降りるとすぐに三股となった。
まだ何とか歩けそうなので、魚を求めてがんばって下る。ゴルジュを過ぎた Co897 二股で幕営する。焚き火に火をつけて、魚釣りに興じる。が、思ったように釣れない。時々当たりはあるが、なかなか食いついてくれない。ねばって何とか五尾を釣り上げる。小さいのをリリースして、二尾を塩焼きにした。どちらも成熟した雌で、イクラが旨かった。
2009年09月20日(日)
今日はちょっと下るだけだ。しばしスポーツフィッシングに興じる。しかし、全然釣れない。しびれを切らして、カワゲラと捕まえて餌づりに変えると、速攻で釣れた。やっぱり毛針より餌づりの方が圧倒的に釣れるじゃないか。釣り師のうそつきめ。まあ、腕の問題もあるのだろうけど。あと、カワゲラだと油断するとすぐに針を飲み込んでしまい、針をはずすのが大変だ。この日も食べ頃じゃないヤツを弱らせてしまい、仕方なく食べた。この間二組の登山者が通過していった。
淡々と踏み跡を下り下山する。自転車で一気に林道を下る。ゲート前には大量の車が停まっていた。着替えていたら、ダムから釣り師が大きなオショロコマをぶら下げて登ってきた。ダムにはあんなに大きなオショロコマが居るのか。彼はオショロコマを発泡スチロールの箱に入れて再びダムに降りていった。
とりあえず川北温泉へ向かう。林道を下る途中でボリボリとムキタケを少し採取する。温泉でさっぱりした後は伏美小屋へ向かった。