静内川水系メナシベツ川にベニカル沢という支流がある。一八三九峰の南西の無名の衛峰 P1742 に突き上げる沢である。この山、一八三九峰南西稜上の小さな衛峰という扱いでほとんど誰にも見向きもされないが、実は同じ日高山脈中部のペテガリ岳やルベツネ山、それにコイカクシュサツナイ岳よりも標高は高い。たしかにすぐそばの一八三九峰の威厳には見劣りするが、単独で見た場合には悪くない山容である。そこに突き上げるベニカル沢も急峻で山頂まで一気に突き上げていて何かありそうである。お盆の一八三九峰の計画の偵察も兼ねて、この、おそらく他には誰も気にも留めないだろう沢に行ってきた。なお、一七四二峰と言われてもピンとこないので、当サイトではベニカル山と呼ぶことにしている。
行程
2016年07月22日(金)
ベッピリガイ乗越の入口へ着くと、平日だというのに10台近い車が駐まっていた。しかもほとんどが本州ナンバーだ。下側の駐車スペースに車を駐めて出発する。
入渓まで
ルート沿いの始めの方はとても綺麗に苅り分けて登山道化している。ただ、ニシュオマナイ川側にあった案内看板はほとんど撤去されていた。コル付近の詰めはますますズルズル化が進んでおり、登りも下りもフェルトでは辛い。途中ですれ違ったおじさんはゴム長を履いていたが、これが正解かもしれない。というか、世の中にはフェルトとスパイクを組み合わせた靴とかもあるのね。山屋の皆さん、たまには釣り用品に目を向けるとリーズナブルで高機能な商品が見つかるかも知れませんよ。
ベッピリガイ沢側は相変わらずほぼ沢沿いだが、道へ上がる所の踏跡は若干はっきりした印象だ。ベッピリガイ沢本流の渡渉地点にはロープが張られていた。増水時用だろう。ペテガリ山荘は当然みんなアタックに出払っている。
さらに林道を歩き、サッシビチャリ川を越え、ベニカル沢へ向かう。紅狩橋の手前で、ベニカル沢右岸沿いに伸びる右手の道へ入る。林道ははっきりしており、簡単に Co400 の屈曲点二股に出た。
ベニカル沢
この屈曲点付近は、地形図では函記号が記されている。確かに岸は函状で立ってはいるが、沢底は平坦な河原が続く。
Co520 でようやく小さな函滝が出てくる。右岸には人が通ったような踏み跡が有る。ここまでは釣り人の物だろうかと思っていたが…
その後、綺麗なミニゴルジュが一つ出てきて、更にもう一つゴルジュかと思ったら、両股が滝となって合流する Co570 二股だった。
釣り
ここが魚止めだろうかと、試釣してみる。当たりは一度だけだったが、魚はいることは分かった。ただ、流木に根掛かりしていきなりハリスを一つ失ってしまった。
少し下の河原を天場にし、滝は根掛かりするので近くの瀞に針を垂らす。始めに掛ったのは5cmほどの小魚。一瞬、え?ヤマメ?と思ったが、そんなわけはなく、そうここはダムの上流、ニジマスの稚魚だった。ヤマメやアメマスならリリースサイズだが、外来魚なのでキープする。
その後30分足らずで25cm位のニジマス2尾とアメマス1尾、稚魚1尾を釣り上げた。アメマスはヌルッとつり上がるが、ニジマスは釣り上がる前に必ず水面に一度飛び跳ねてくれる。こういうパフォーマンスが面白いというのは分からないでもない。ニジマス2尾は刺身に、残りは塩焼きにして頂く。稚魚は一口…にもならなかった(苦笑
うっかりしていたが、ラテルネの電池が切れていた。しかも、替え電池を持ってくるのを忘れた。ブラックダイアモンドのラテルネはロック機能が付いているが、ロックしていても数ヶ月で自然と電池が切れてしまう。これでは山行ごとに電池を外さざるを得ず、正直あまり意味が無い。何とかカメラの LED ライトで周囲を歩くくらいはできたので助かった。何かと万能なコンパクトカメラよ。なに?今時はスマホで全部できる…だと?
2016年07月23日(土)
ベニカル沢南西面直登沢
朝一から出合の滝を右岸からシャワークライムで越える。その後もゴルジュ状は続くが、岸はさほど高くもなく、深い淵や大きな滝も少ない。へつりや直登を楽しむ程度に越えていく。
割と平坦なガレが多いなと思っていると、 Co660 で右岸に何やら有りそうな岸壁が見え、回り込むと案の定登れない直瀑が落ちていた。
左岸から高巻くと、ほぼ垂直な壁際に絶妙な踏跡が着いていた。この滝の上に魚がいるとは思えないので、釣り師とは思えないが、こんな沢に目を付ける沢ヤが他にも居たのか?と困惑する。
浅いゴルジュ状に滑滝が続いており、 Co720 二股には二段の滑滝が出てくる。簡単そうに見えて、ツルツルで一段目にすら上がれず、結局左股の滝から右岸を巻いたら、ここにも踏跡らしき物が有った。
Co770 二股の滝はもろシャワーを浴びるか泳げば直登できそうだが、ずぶ濡れになるのが嫌で右股の滝からトラバースした。
Co810 の滝は右岸のカンテ状から登れるかなと思って取付いたが、これは失敗だった。最後で思い切りが着かず、ジリジリと戻って結局右岸から巻いた。
二条の滝を一つ越えると、左右に大岩壁がそり立ち、ガレが続くようになる。
Co1050 から長い滑滝を越えて沢が右に曲がると、函状の中にびっしりと雪渓が埋めていた。こんな南向きの明るい沢にこれだけの雪渓が残っているのはショックだった。お盆の神威岳、一八三九峰の予定まではは2週間しかない。それらの沢に雪渓が無いことは絶望的になった。
岩壁から上に上がるが、この時期だけに薄くなっている所もありそうでちょっと恐い。実際に部分的に落ちている所もある。
雪渓は Co1250 の三股状まで続いていた。傾斜はさほど大きくないので、下はガレか滑滝だろう。この辺りは谷の合流が複雑で迷いそうな所だが、某ツールで分岐の仕方は確認済みだ。もう何年かしたら沢に行かなくてもそのツールで遡行図が書ける時代が来る。というか、今回もほぼそのツールでだいたいの概要は分かって来たわけなのだが。
雪渓を過ぎて真ん中の沢に降りる。ここから先は日高らしく途切れなく岩盤が続く。急峻だがスッキリしていてホールドも豊富で快適な直登が続く。二股を左、右、左と進み、最後は頂上めがけて進み、急な壁をよじ登って頂上へ直接飛び出た。
大河原沢
肝心の一八三九峰は残念ながら雲の中だが、ルベツネ山、コイカク、一八二三、カムエクが綺麗に見える抜群の展望台だ。コイボク、無名沢、ルベツネ西面などの核心部には雪渓が残っているのが見える。一八三九峰が晴れるのを少し待ったが、下りも長いので後ろ髪を引かれながら下降を開始する。
某ツールでは北斜面にシカ道が伸びているのを確認してきたが、思ったほどはっきりもしておらず、部分的に藪を漕いで思ったよりも時間がかかった。それでも稜線を忠実に漕ぐよりも早いのだろうか。
沢に出ても思った以上に急な岩場が多く捗らない。 Co960 出合は細いルンゼ状になっていて右岸から無理矢理巻いて降りた。
そこからはひたすらガレ沢。不安定でこれまた歩きにくい系のガレ。そして長い。ひたすら長い。ようやく水が出てきて小さなゴルジュが出てくると天国かと思える。 Co450 付近の広い河原には林道の跡らしき物も出てきた。 Co420 で右岸に林道が降りてきていてようやく道に上がる。
道に上がっても終わりではない。林道を下り道道に出て下り、東の沢林道を上ってペテガリ山荘を目指す。足回りは作業用足袋に履き替えるが、両小指が靴擦れになってしまってペースが上がらない。やっぱり多少重くともトレッキングブーツを担いだ方が良い。
ようやくペテガリ山荘に着いたのは日没後、19時過ぎの真っ暗になる寸前だった。既に小屋の何人かは眠りについている。ラテルネがないので明かりの着く流しで夕食を済ませて、物置の中で眠りについた。
2016年07月24日(日)
朝早くから物音がしていたが、物置の中なので気にせず眠り続ける。お腹が空いて出て行くと、小屋には六人ほど残っていた。まだ寝ている三人は釣り師らしい。たかがアメマスやニジマスを釣るためだけに遙々こんな山奥までわざわざ来るなんてご苦労様だ。
帰り道、ベッピリガイ沢本流の渡渉地点は完全に伏流していた。往路ではそこそこ水量があったのに。たった二日でこんな風に水量が変わるんだ。
雑感
ベッピリガイ沢は、そこそこ面白い沢ではあるが、何しろ道路が通れないのでアプローチが余りにも遠い。今回はベッピリガイ乗越を使ったが、三石ダムルートを使った方が早いような気がするが、それでも大差は無いだろう。それに、頂上からの下降も面倒だ。大河原沢は上部は意外と悪い。あんがいベッピリガイ沢往復の方がマシだろうか。一八三九峰南面や無名沢への継続もアリと言えばアリだが、どんなマニアだ。ただ、ベッピリガイ山(仮)は中日高の展望台としては抜群で、一度は登る価値がある。
ところで、ベニカル沢に付いていた巻き道は一体何なんだろう。シカ道なのかとも思ったが、シカがあんなにも人為的な巻き道を作る物だろうか。それとも、やはりわざわざこんなニッチな沢に目を付けた他の誰かなのだろうか。