- 目的
- カムイエクウチカウシ山縦走
- 日程
- 2015年01月24日(土) - 28日(水)
- 山域
- 中日高
今回の目的は日高の盟主カムイエクウチカウシ山の二つのルートを踏査すること。今回も後輩に声をかけようかと思ったが、どちらのルートも酷い藪ルートで知られていて、短い日程では難しそうなので1人で行くことにした。当初はもう1日早く入山するつもりだったが、道東方面の大荒れ予想にひるみ入山を遅らせた。しかし、実際に荒れたのは釧路根室方面で、十勝地方はこれと言って荒れた形跡はなく、1日遅らせたせいで稜線上は視界不良、帰り道では雨に降られた上に、雪崩に遭遇して間一髪などさんざんな目に遭ってしまった。
行程
装備
- ツエルト
- ULSSADH#2 + ULSSADH#5
- ディナリジャケット
- ノマドジャケット
- トレールアクションパーカー
- ジオライン3Dネックジップシャツ
- ジオラインMWシャツ
- フラッドラッシュ・アクティブスキンシャツ
- アルパインパンツ
- マウンテントレーナーパンツ
- ジオラインMWタイツ
- フラッドラッシュ・アクティブスキンタイツ
- メリノウール・アルパインソックス
- 山スキー
- ワカン
- アイゼン
- ピッケル
- アルパインクルーザー 3000
2015年01月24日(土)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
15:05 | 晴 | 札内ダム | 出発 |
16:20 | 晴 | 札内ヒュッテ | C1 |
なんか今朝まで大荒れとか騒いでいたが、バカみたいに天気が良い。高速道路から見える日高の山脈があまりにも綺麗で、気になって運転に集中できない。やはり昨日のうちに出発すべきだったと早くも後悔する。
大樹のコンビニで昼食を買って、札内ダムゲートで車を駐めて少し遅めの昼食を取る。
スキーを持って行こうかどうか最後まで迷ったが、やはり持って行くことにした。出だしからトンネルなのでスキーは担がねばならない。重たい荷物がずっしりと食い込む。
ゲートを潜ってトンネルを歩く。トンネルを出ると橋の上には雪が積もっている。いちいちスキーを付けるのは面倒なので、始めの2本目まではツボで歩いたが、思った以上に雪は深くて消耗するので3本目の橋からは諦めてスキーを使うことにした。やはりスキーを履いた方が断然に楽だ。
1時間ちょっとで今夜の宿札内ヒュッテに到着した。ストーブの横でぬくぬくと夜を過ごす。そういえば、小屋のノートの最後の書き込みは某有名人だった。
2015年01月25日(日)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
05:00 | 起床 | ||
06:05 | 晴 | 出発 | |
07:00 | 望岳覆道の先 | ||
09:05 | 七ノ沢出合 | ||
15:00 | Co1400 | ΩC2 |
夜明け前に起きて、薄明るくなったところで出発。日が出ようが出まいが、幌尻ゲートまではトンネルなのでラテルネが必要だ。
コイカクの橋を渡っていると、谷の奥にピラトコミ山の頂が浮かんで見えた。あかしやトンネルから幌尻覆道を経て、幌尻ゲートからスキーを付ける。それでも、望岳覆道と夫恋覆道(つまこいふくどう)で2度はスキーは外さねばならず、面倒だ。
急なガケ沿いの道路には、ルンゼ毎にデブリが溜まっている。谷の奥には一九〇三峰などの白い頂が見え始めた。
七ノ沢出合までは結局3ピッチかかった。当初スキーを持ってくるか迷ったが、無ければかなりキツかっただろう。しかし、冬の日高でスキーどうするか問題の核心はまだまだこの先にある。
七ノ沢に架かる橋を渡り、尾根に取付くが、どこから取付こうにも凄い傾斜でとても楽には行きそうもない。もう少し先の P1807 直登沢分岐から取付いたら楽かとも思ったが、たいして変わりそうにも思えないので普通に取付くことにした。
笹の上に積もった崩れやすい急な積雪を、ブッシュをつかみつつ無理矢理登高する。スキーでの斜登高も厳しいが、雪の保持力が無いのでツボでもワカンでも難しいだろう。なんだかんだで数十m高度を上げるのに1ピッチを要した。この取付きに2時間も3時間もかける人が居るのが頷ける。やはり2~3度の渡渉は覚悟の上で北端から取付いた方が無難か。
その後も急な斜面は続くが、取付きに比べれば楽な物。保持力のない雪にやや苦戦しつつも順調に高度を上げる。
P1227 のジャンクションは、吹きだまり斜面で雪庇が出ている。大きな雪庇がある場合は稜線に上がるのがちょっと恐いかも知れない。稜線上は藪尾根。左側には少し雪庇が出ている。起伏もあって、一部スキーを外したりしながら進む。
少し進むと、 P1807 へ続くものすごい急な尾根が見える。あの角度を本当に登れるのだろうか。
P1297 は右側の斜面をトラバースしてコルに出る。コルは広くてとても快適な天場になりそう。そろそろ泊まるところを決めないといけないが、今回はテントを持ってきていないので、雪洞の掘れる吹きだまり斜面を探してもうちょっと先に進む。
ここから先が、先ほどものすごい傾斜に見えた尾根だ。確かに七ノ沢側は垂直に落ちて近づけないが、仲ノ沢側は比較的広くて意外と登りやすい。ただし、降雪後はちょっと雪崩が恐そう。
本当は 1660 を過ぎた先のコルまで進みたかったが、時間切れとなったので、適当な斜面に穴を掘ることにした。縦に斜面を切り崩してから、横に穴を掘り進める方式。積雪量は少なく、すぐにダケカンバの枝が顔を出す。快適とは言いがたいが何とか1人生活する程度の穴を掘り上げる。
テントが不要な分軽いのは良いが、雪洞を掘るとどうしてもグローブを中心とした衣類が濡れてしまう。それを乾かすために燃料を消費したり、シュラフにすわせたりしないといけないので、本当はどちらが良いのやら。
スキーを立てると、シールに雪がべっとりと付いていた。どうやら、天気が良すぎて雪面が融けて雪が付着したらしい。そりゃ、シールが滑るはずだ。今夜はこれも抱いて寝ねばならぬ。
2015年01月26日(月)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
05:00 | 雪 | 起床 | |
07:00 | 出発 | ||
09:50 | P1807 | ||
11:05 | ピラミッド峰 | ||
13:00 | カムイエクウチカウシ山 | ||
14:40 | 曇 | 一九〇三峰 | |
15:35 | Co1600 | ΩC3 |
ああ、天気が悪い。雪は積もってはいないが、昨日までの突き抜けるような視界は何処へやら。大荒れ天気予報にビビって1日出発を遅らせたつけが回ってきた。昨日主稜線を歩いていればものすごい展望だったであろうに。
一瞬、停滞も頭をよぎったが、そうなるとここから引き返す公算が大きくなる。弱い自分を振り払い先へ進むこととする。
しばらくはスキーを使う。 1660 に上がるとやはりブッシュが多い。コルは雪洞も作れそうだし、テントも張れそう。ただ、コルの先の左側は垂直にすっぱりと落ちていたまさにガケ尾根。
コルを過ぎてもしばらくはスキーで進んだが、雪が少なくなってきてエッジが効かなくなってきたのでワカンに切り替える。しかし、ワカンの爪も効きづらく滑るので、すぐさまアイゼンに切り替える。アイゼンに換えたらアイゼンに換えたでズボズボ埋まる吹きだまりもあったりして、なかなかにっちもさっちもいかない尾根だ。
尾根は上に行くほど傾斜を増し、ブッシュがうるさく、担いだスキーが引っかかって鬱陶しい。左側は垂直に落ちており、ブッシュの少ない右側に逃げれば雪が深くて登れない。体を捩らせながらブッシュの合間を縫って行くしかない。
最後までブッシュに泣かされながら何とか主稜線に立つ。視界は100m有るか無いか。風は若干有るが、行動の支障になるほどではない。気温が高いのが救いだ。
ピラミッド峰へ向かうと、細い岩稜が現れる。左側は行けなさそうなので、右側の斜面をトラバースするが、こちらも急な斜面で、八ノ沢カールへ一気に落ちている。この区間を積雪期に歩くのは3度目だが、こんな所の記憶が無い。
ピラミッド峰からの急な下りは雪付きが悪く、踏み跡が出ている。アイゼンの爪が効かない岩場を通過する時は少し緊張する。5mほどのバックステップも交えつつコルへと下る。
カムエクへの登りはそれまでに比べれば穏やかだ。岩場もルートがはっきりしていて、通過は難しくない。快適にアイゼンを効かせ、視界の無い中淡々と高度を上げる。
静かな台地状を過ぎて、夏場よりも広く感じる山頂へ。やはり視界は無い。待っていても晴れそうにはないので、下降尾根へ向かう。
Co1900 で稜線が稲妻型に屈曲する部分で、主稜線を見失って一瞬八ノ沢側の急な尾根に降りてしまいそうになるが、コンパスを切り直してすぐに元に戻る。広くて尾根筋がはっきりしないだけに注意が必要だ。
ここから先の尾根は、中日高としては「だだっ広い」と言えるだろう。ワカンやスキーでも良いくらいの広さだが、アイゼンが効くし、視界が悪いのでそのまま進む。コルからはワカンに換える。所々バリズボもあるが、大抵は爪が効くのでアイゼンでもたいして違いは無いだろう。右側には雪洞の掘れそうな吹きだまりも散見される。一九〇三峰への分岐は静かな台地。雪洞も掘れそうだし、ブロックを積んでテントも張れそう。
一九〇三峰へ向かうと、尾根は細くなり、岩稜帯となるが何とかワカンのままで進める。アイゼンに換えても良かったが、変えるのが面倒だった。
一九〇三峰でいったん休憩し、アイゼンに換える。ピークから肩まではすぐだろうと思っていたが、むしろコルに降りてからの方が稜線は細かったのでアイゼンに換えて正解だった。
コルに降りて、岩場を巻きながら肩へ向かっていると、にわかに空が明るくなってきた。うむ、そういう物だよね。肩の上で久々の青空と太陽を拝む。肩の辺りには正月の北大の物であろう踏み跡が散見された。いや、さすがに一ヶ月も前の踏み跡は無いか?最近他のパーティが来たのかな。
下降尾根は灌木の生えた細い尾根で、特に右側はすっぱりと落ちている。少し下ると左側は美味しそうな斜面になってきたので、スキーを履くことにする。とは言え、急斜面で割とクラストしているのでキックターンを繰り返しながら斜滑降で下る。
そろそろ泊まるところを決めなければならないが、上部にはいくらでも吹きだまりがあったのに、少し高度を下げるとみるみる雪の量が少なくなって、雪洞が掘れるかどうか怪しくなってきた。時間も時間なので、何とかなりそうな吹きだまり斜面に決めるが、これが大失敗だった。
今日は斜面を広く掘って後から壁を建てる方式で掘り始めるが、すぐさまダケカンバやらハイマツが出てきて、とても寝床を確保できそうにない。周囲をいくつか掘ってみるが、結果は同じで途方に暮れる。仕方がないので、昨日と同じように横に掘り進めると何とかスペースが確保できたが、もう根気が切れてしまい、足が少し出るくらいで止めて足りない分はツエルトでごまかすことにした。だが、これが後に面倒な事態を招くのだった。
夜は静かで、狭いながらも何とか食事を済ませ寝床に着く。夜中から少し風が強くなり、入口をブロックで塞がなかった分昨日より少し寒い・・・寒い・・・寒い・・・?と、不穏な感じがして起き上がってラテルネで照らすと、ツエルトがめくり上がり雪が吹き込んで周りが雪だらけになっているではないか。
うわぁあー。やっちまったー。慌てて起き上がり、ツエルトで入口を塞ごうとするが、風で煽られてなかなかうまくいかない。なんとかかんとかツエルトを固定して入口を塞ぐが、手はかじかんで痛いし、シュラフにまで雪が吹き込んで濡れるし踏んだり蹴ったり。暖まるためにガスに火をつけるが、これも仕舞うのを忘れて雪まみれになった性なのか、なんか燃焼状態が悪い。(後にリベットが折れて内部の部品が欠落したためと判明。それが経年劣化によってたまたま発生したのか、雪まみれにした生なのかは不明。)濡れたシュラフに潜り込むが、寒いし、風が吹く度にツエルトが飛ばされていないか気になるしで眠れない夜となった。
2015年01月27日(火)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
05:00 | 曇 | 起床 | |
06:45 | 出発 | ||
08:50 | 雨 | 八ノ沢出合 | |
11:15 | 七ノ沢出合 | ||
14:30 | 札内ヒュッテ | C4 |
何とかその後はツエルトも飛ばされる事なく朝を迎えた。もう二度と中途半端なことはせず、雪洞にするなら完全な雪洞にしようと心に決めるのだった。
寒い夜だったが、外はさほどでもない。天気予報通り、気温は高いのだろう。
さて、ここから先はスキーが快適そうな尾根が続くが、もはや重い荷物をしょってスキーを楽しむ気力も無いので、シールは付けたまま下ることにする。雪質は固いので、シールを剥がしたところでさほど楽しむことも出来ないだろう。
キックターンと斜滑降を繰り返し高度を下げる。尾根は徐々に広くなる。 Co1450 からはだだっ広い斜面となって、尾根筋は記念別沢方向と八ノ沢方向に分かれている。何となく記念別方向の方が快適そうな気がするが、予定通り八ノ沢方向へ下る。
八ノ沢出合へ下る尾根は、だだっ広い斜面から分岐していて、非常にわかりにくい。視界が悪い時には正しく下るのは難しいのではないだろうか。
この尾根に乗ると、広い疎林の斜面から急に細い藪尾根になる。所々急なところもあってスキーは難しくなってくる。
何とか左右の斜面も活用しつつ、滑っていくが、突如スキーにブレーキがかかってバランスを崩す。気がつくと、ちらついていた雪はいつしか雨になって、雪面が濡れていた。1月のこの時季に雨とか何なの。
みるみるスキーは雪だるまになって、下りであるにもかかわらず先に進まなくなってくる。ここまでずぶ濡れの状態になってくると、もはやシールは雪を吸い付ける物でしかない。仕方が無いのでシールを剥がす。何度も転んでいるうちにストックがまた曲がってしまった。
シールを剥がしても、多少はマシになるがやはり雪はくっつく。しかも尾根は急に、ブッシュは濃くなってくる。所々スキーを脱いでツボで駆け下りたり、ふたたびスキーを付けたりしていくが、最後の 100m からは本格的に急な藪尾根になるのでスキーを担ぐ。担いだら担いだでスキーがブッシュに引っかかるが何とももどかしい。
雨でグズグズになった斜面をズルズルと滑り降り、ようやく八ノ沢出合に到着した。ものすごい消耗して、何時間もかかったつもりでいたが、出発からまだ2時間しか経っていなかった。雨は降り止まないどころか、どんどん本降りとなってくる。
ここから渡渉が続くので、出来ればシールを付けたいが、シールを付けなくてもベタベタと雪が付くので、シールなど付けたらどうなるかは目に見えている。シールを付けないまま出発するが、案の定どんどん雪が着いてすぐにスキーが重くなる。
八ノ沢出合からいったん右岸に移り、急な斜面をトラバースして 660 で左岸に移る。あまりにも雪が着いてまともに歩けないので、スキーにロウをこすりつける。これをやると、シールが剥がれやすくなったりするのであまりやりたくなかったが、背に腹は替えられない。にもかかわらず、あまり効果は無いような気がする。
とか言ってると、急な斜面をトラバースしている時に限って雪が剥がれてスリップするのでやってられん。
仲ノ沢出合を過ぎて休憩。ここでもう一度スキーの水気を拭き取り、ロウを付ける。この後は多少効果があったような気がする。
渡渉地点は夏場とほぼ同じ。裸足渡渉を覚悟して、ビーサンなど持ってきたが、全てスキーを使って通過できる。ただ、スキーが無ければブリッヂは崩壊しそうだ。
七ノ沢出合の橋の下でしばし雨宿り。しかし、ヒュッテまでまだまだ長い。とはいえ、ずぶ濡れのままこんな所で泊まる気にもなれない。
登りのトレースに乗って淡々と下り始める。トレースはルンゼを横切る度に真新しいデブリでかき消されている。雪崩恐いなーなどと、漠然と思いながら歩いていると、突如目の前のデブリの上から轟音を立てて雪崩が落ちてきた。
しばし呆然と見つめるしかなかったが、ふと思い立ってカメラの動画ボタンを押すが、最後の数秒間の屑部分しか撮れなかった。別に写真に写っているデブリが一度に落ちてきたわけではなく、上澄みのほんの少しの部分だけだが、それでも直撃していればただでは済まなかっただろう。数秒の差で間一髪だった。
もはやどこに居ても雪崩から逃れることは出来ない。立ち止まっては居られない。デブリの有るところでは可及的速やかに通過。しかし、やはりこう言うところに限ってスキーがスリップして時間がかかる。
やっとの思いでヒュッテに到着。とりあえずストーブに薪をくべて火をつける。ダムまで1時間ちょっと。この日の内に下山するかどうかずいぶんと迷ったが、へろへろになって下山したところで途中で力尽きてしまいそうなので、やはり泊まっていくことにした。もはや誰も来ることも無いだろうから装備を広げ、濡れた物を乾かす。昨日酒を飲み尽くしてしまったことが悔やまれる。
2015年01月28日(水)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
06:00 | 晴 | 起床 | |
07:45 | 出発 | ||
08:55 | 札内ダム | 下山 |
始めと終わりだけ天気が良いって言うね、なんて言うか。まあええけど。そんなわけで、のんびりと起きて装備を調え、軽く拭き掃除などしてからヒュッテを後にする。
凍り付いた雪面にスキーを滑らせて、トンネルでは担いで行く。食料を消費したはずなのに思ったほど軽くはなっていない。今回、行動食は半分近く余ってしまったし、停滞食がちょっと多すぎたかも知れない。
それにつけても、入山を1日遅らせたことを何度も悔やみつつ札内ダムへとたどり着いた。