- 目的
- ナメワッカ岳北面直登沢遡行
- 日程
- 2014年09月20日(土) - 22日(月)
- 山域
- 中日高
ナメワッカ岳の北面に、日高でも屈指の急峻な谷が刻まれている。ゲジゲジの函記号と屈曲する谷筋と混み合った等高線はいかにも極悪な渓相を想像させ、考えるだけで胃壁が痛くなるほどだが、今まで遡行記録を見たことがなく、ずっと気になる存在だった。本当はおやぶんを召喚して二人で行こうと思っていたが、都合が付かなかったのでとりあえず一人で偵察に出かけたが・・・
行程
- 2014-09-20
- 新冠林道~奥新冠ダム~ポロシリ山荘 C1
- 2014-09-21
- C1~ポンベツ沢~ナメワッカ岳北面直登沢~ナメワッカ岳~ナメワッカ岳西面直登沢~ポロシリ山荘 C2
- 2014-09-22
- C2~新冠林道~奥新冠ゲート 下山
2014年09月20日(土) 奥新冠ゲート~ポロシリ山荘
| 時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
|---|---|---|---|
| 11:00 | 晴 | 奥新冠ゲート | 出発 |
| 11:20 | いこい橋ゲート | ||
| 13:20 | 奥新冠ダム | ||
| 13:45 | ポロシリ山荘 | C1 |
今日はとりあえずポロシリ山荘を目指す。朝に家を出て、長い新冠林道を進む。飛び石とは言え、連休なので人が多いかと思ったが、奥新冠ゲートには本州ナンバーが一台だけだった。
出発の準備をしていると、そのナンバーの持ち主が下山してきた。その男性は途中で、親子グマがいて写真を撮ろうとしたが居なくなってしまったとか余裕こいていたが、親子グマの怖さを理解してるんだろうか。小屋に薪があるかと聞くと、湿った薪と格闘したが、火は全く着かなかったとのこと。
天気は良いが、風が冷たい。自転車を下ろして出発する。悪名高きいこい橋のゲートは、六角レンチを使ってハンドルを曲げて下から通す。
道はアップダウンが多く、自転車は押す時間も長い。5km置きに山荘までの距離が書かれた看板がある。
奥新冠ダムは放水口の高さまで湛水していた。嫌な予感がする・・・・
ダムを過ぎると道は少し荒れる。もしゲートが開放されても私の車ではこの先に進むのはちょっと難しそう。
ポロシリ山荘の脇にはプレハブのトイレが新設されている。景観的にはちょっとアレだが、以前の垂れ流し状態が解消されたことは非常に喜ばしい。
ちょっと早いので、荷物を置いて釣りに出かける。オショロコマの稚魚が釣れてしまい困りもの。大物を求めて少し上流に行くと、いつものイワナとは違う引きで何事かと思ったらニジマスでびっくり。
イワナも尺物を一尾つり上げ、塩焼き用と針を飲み込んでしまったオショロコマを持ち帰る。
河原で薪を集め、ストーブに火を入れるが、薪は全体に湿気っているので火力は弱い。
ニジマスと尺イワナを刺身にして、残りはストーブの上で塩焼きに。火力が弱いのでなかなか火が通らない。イワナはウロコが気にならないが、ニジマスはウロコがしっかりしていて、イワナと同じようにカワハギをしたら口中にウロコが入ってエラかった。
そうこうしていると、本州からの登山客が1人やってきた。刺身と塩焼きをご馳走し、お返しにワインをご馳走になった。
2014年09月21日(日) ナメワッカ岳
| 時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
|---|---|---|---|
| 04:00 | 起床 | ||
| 05:00 | 出発 | ||
| 06:00 | Co730 二股 | ||
| 07:00 | ナメワッカ岳北面直登沢出合 | ||
| 11:30 | ナメワッカ岳 | ||
| 12:00 | |||
| 15:25 | ナメワッカ岳西面直登沢出合 | ||
| 16:30 | ポロシリ山荘 | C2 |
幌尻湖岸
同宿の方は今日はアタックのみなので、のんびりらしくまだ寝ている。静かに・・・でもないが準備をして出発。自転車とブーツとアプローチ用食料は残置。
小屋の脇から沢に降りる。幌尻右沢出合までは荒れ気味で歩きにくい。以前にカムイ岳から乗っ越してきた時は湖が干上がっていて湖底を歩けたが、嫌な予感が的中し水は湖岸ギリギリまで来ていて歩けない。
仕方がないので右岸をへつり、急斜面の笹藪を漕いでいく。しばらく我慢して進むが、これを二股まで続けるのかと思うとイヤになって上の方を眺めると、ちょっと上の方にブル道の様な物が見える。上がってみると、古いブル道の跡らしき物が続いていた。
ブル道は快適で、 Co720 付近まで続いてる。河原に降りるところにも踏み跡は有るが、全体に崖地形なので見落とすと面倒くさそうだ。降りたところには赤テープが有ったので、帰りには目印になる。
ポンベツ沢
すぐに Co730 二股。右のポンベツ沢へ進む。しばらくは河原だが、この辺りもダムがなければゴルジュなのだろうか。
ナメワッカ西面直登沢出合の手前からゴルジュとなる。ポンベツ沢は一度遡行しているが、まるで記憶が無い。10年前の話だ。当時はまだいわゆるバカチョンと言われたコンパクトフィルムカメラで、一日十数枚程度の写真しか残っておらず、遡行図の書き方も稚拙で正確性に欠ける。今では完全防水のデジカメで毎日数百枚の写真をバシバシと撮り、しかも位置情報や高度、撮影方向などの情報まで付加できて事細かな記録が可能になった。わずか10年で大きな進歩だ。
西面直登沢はツルツルの斜瀑で、二丈の流れが弧を描いて本流の瀞に落ちている。右岸の側壁を微妙なへつりで通過する。泳いだ方が早いが、寒いので濡れる気になれない。
釜を持った幅広の小滝が続く。途中まで小さな魚影を見たような気がするが、どこからか見えなくなった。
北面直登沢出合まで左岸から2本ほどルンゼが滝となって合流する。まさかこれが北面直登沢?と地形図を確認するがそんなわけはない。
ゴルジュを抜けてゴーロ帯となって Co785 で北面直登沢が合流してくる。出合付近は狭いながらも河原が有って、幕営が可能だ。
ナメワッカ岳北面直登沢
いよいよナメワッカ岳北面直登沢である。ここに来るのは2度目だが、全く記憶にないし、メモにも何も書いていない。当時はまだ「山谷」のルートをトレースするのが精一杯で、未知の沢に目をやる余裕など無かったのだろう。
直登沢はガレ沢となって合流しており、少し先に小滝とはるか上流に巨大な滝が落ちているのが見える。
あの滝が核心か、いやあの滝までたどり着けるのだろうか。入口に立っただけで引き返したい気持ちになる。
滑滝が続くが、デブリとガレが多い荒れ気味の渓相だ。この辺りでは地形図では壮絶な函地形が刻まれているが、ご多分に漏れず気に留めるような渓相ではない。
Co920 の屈曲点は大絶壁に囲まれ、右に屈曲している。
本流はデブリの詰まったルンゼの中に大きな滝となって落ちてきている。
この手の滝のセオリー通り、デブリをよじ登って左岸のルンゼを詰めて巻きにかかる。下から見ると割と簡単にトラバースできそうだったが、滝自体も下から見るよりもずっと大きく、側壁も意外と立っていて思ったよりも上の方まで追い上げられる。
それでもまだ引き返すほどの渓相ではなく、側壁を慎重にトラバースして滝の上に出る。
更に右岸がかぶり気味の狭い函の中に難しそうな滝が続く。1つ目の滝は簡単に直登する。2つ目は途中まで上がるが、更に上部が手前のカンテに遮られてよく分からず、下手にとりついたら嵌まりそうなので無理をせずに函の入口まで引き返し、右岸のリッジから越える。滝の上は更にツルツルになっていたので、巻いて正解だった。
沢に戻ったところから地形図上の1つ目の滝となる。下から見る限りは直登も出来そうだが、もろシャワーだし、ソロでは無理。ちょっと嫌らしそうだが、左岸のルンゼから巻きに入る。
嫌な予感通り、このルンゼはなかなか悪い。ジェードル状に浮き石が詰まり、だましながら攀じるが、上部はだんだんとかぶって来てしかも脆い。怪しげな草付きを左にトラバースするが、崩れ落ちそうな足下に進退が取れなくなってくる。
怪しげな灌木に体を預け、滝の左岸リッジのダケカンバまでエイヤッと手を伸ばす。手が長くて良かった。垂直のリッジを木登りして滝の上に出る。なんだかんだで登ってしまったが、この滝がこの沢のハイライトだったろう。いずれにしてもロープが欲しいところだ。
滝の上は細い水路となって続いている。左岸のテラスをそのままトラバースする。
滑滝を越えると左に屈曲し、 Co1120 二股はガレの埋める函となって、本流は左岸から滝となって落ちてくる。
地形図上の2つ目の滝の辺りまで急傾斜の滝が続きぐんぐんと高度を上げる。
この直線的な連瀑の突き当たりは絶壁に囲まれた、出合から見えた大滝となる。
手前の滑滝を越えて少しずつ近づくと、さほど劣悪な滝でも無く、ちょっと大高巻きになるが右岸から割と簡単に巻けそうだし、直登も出来そう。
右岸をジグザグにトラバースしながら少しずつ高度を上げるが、落ち口付近のトラバースがちょっと微妙で思い切りがつかない。右岸側に逃げるが、こちらも上部は立ってきてあまり良くはなかった。何とか植生に手を伸ばし、草付きをトラバースして沢に戻るが、足場が見えにくくてその下はすっぱりと落ちているので恐い。
沢見に戻ると、ツルツルの滑が続いていたので、結果巻き気味に登って正解だったかも知れない。続く滑滝はツルツルなのでそのまま右岸沿いを巻き気味に越える。
Co1280 屈曲点の右股は涸滝となって落ちてきて、本流はガレ埋まった函となっており、先には崩れた雪渓が見える。早い時期には雪渓で埋められているだろう。
Co1350 で左岸から落ちてくる滝は階段状で簡単そうに見えるが、ルート取りを誤ると嵌まりそうだ。
机上でのシミュレーションではこの辺りはもう核心部を過ぎているはずだったが、なかなか気を抜ける渓相になってくれない。
滑滝を過ぎて Co1420 に出ると、本流は左に曲がり、極めて細い函の中に滝が続いているのが見える。
ここに来て真の核心かと覚悟したが、近づいてみると滝は小さく、順層のホールドが豊富でいずれも快適に中をシャワーで越えていける。
この函を越えると沢は開け、簡単な滑滝が続いて一気に高度を上げる。
Co1520 を右に進み、沢沿いにどんどん登っていくと、やたらと左の尾根が遠く、右の尾根が近くなり、沢筋が消えてしまった。
ピークに直接突き上げるつもりがどうやらどこかで見落としてしまったようだ。少し引き返し、地形を確認すると、どうやら Co1640 付近でピークに直上する沢筋を見落として右の方に入ってしまったようだ。
この沢筋も間もなく草付きに消え、灌木とハイマツの藪に突入する。20分ほどの藪漕ぎで北の肩に出た。
この日は久々にスッキリと晴れ渡り、空気も澄んで遠くまではっきりと見える。北の彼方には白くなった大雪の峰が見える。
ナメワッカ岳西面直登沢
予定ではピーク付近に泊まる予定だったが、適地はないし、時間も早いので今日の内に下ってしまうことにする。
三角点へは行かず、北峰から直接西面に下る。15分ほどハイマツと灌木を漕いで沢筋に出る。
小さなルンゼ状からガレ沢となり、例のヘリコプターの残骸がある Co1435 二股となる。残骸はもっと大きな物を想像したが、意外と小規模だった。調べてみると、このヘリコプターは私が生まれるより前の1971年の物で、4名の乗員が亡くなったらしい。捜索には延数千人の自衛官が動員されたとか。
Co1380 二股手前で涸れた函となって涸滝を降りると右股は崩壊沢で下流にガレが続いている。このガレは Co1130 二股近くまで続く。
水流が復活し、滑滝が断続するようになってもガレやデブリが多く、ヌメリが強くてスッキリしない渓相だ。
Co1010 屈曲点に滝が出てくるが、右岸に思いの外はっきりした巻き道が付いている。どうやら、ナメワッカ岳への登頂ルートとして相当数の人が入っているようだ。
Co970 でいよいよ周囲が高い壁に囲まれた屈曲したゴルジュとなる。ここも何もなければ相当考えるところだが、やはり右岸に天才的な巻き道が刻まれている。
更に細い樋状の流れとなって、ここは中も行けそうだが最後は泳ぎが必死なので右岸から高巻く。
滑滝が続き、スッキリした渓相なら楽しそうだが、やはり荒れ気味でだんだんうんざりしてくる。
Co800 で大きな釜を持ったチョックストンの滝となる。これは少し戻って左岸から高巻きに入る。ここも少々アクロバティックながら、やはり踏み跡が刻まれている。しかし、降り口がわかりにくい。降りるところを探して草付きをトラバースしていたら足場が崩れて3~4mほど滑落してしまった。滑落と言ってもうまく滑って着地したので特にダメージは無い。
樋状の滝が続くゴルジュを左岸のテラスから巻き、いくつか滑滝を降りると出合となった。なんかどっと疲れた。北面の登りよりも西面の下降の方が辛かったような気がする。
ポロシリ山荘
気力を失い、 Co730 二股で天張ってしまおうかと考えるが、寒いし中途半端なのでがんばって小屋を目指す。
目印の赤布から右岸に上がり、さくさくとブル道を進む。ブル道は幌尻沢出合の中間尾根を回り込み、幌尻沢の左岸沿いに更に上流まで続いている。
適当なところで沢に下り、右岸の枝沢を詰めて林道に出た。林道で薪を拾って小屋に着くと、昨日の男性に加えてもう少し年配の男性が一人増えていた。
ストーブの周りにはこの男性が火をつけようと苦戦して諦めた跡が散乱していた。なんか知らんが私がストーブに着火するのをこの男性に教示する流れに。
この男性、60歳で登山歴2年目で単独で北海道の山をはしごしているとか。先日は沼ノ原の沢筋で道に迷って大変だったと自慢げに話されて、ああ、こういう遭難予備軍が山ほど居るんだろうかと思いつつへえと適当に相づちを打つ。
この日は暗くなってから更に男女1名ずつやってきた。
2014年09月22日(月) ポロシリ山荘~奥新冠ゲート
| 時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
|---|---|---|---|
| 05:10 | 起床 | ||
| 08:05 | 出発 | ||
| 10:10 | 奥新冠ゲート | 下山 |
今日は林道を帰るだけ。アタック組を見送ってゆっくりと下山の準備をする。
昨日は急いでいたのであまり気にしなかったが、トイレに行ってみると、便器の周りには何故かペットボトルが散乱し、隅には使用済みの紙が積み上がるという謎の現象が発生していた。タンクの水も空でいくらペダルを踏んでも水が出てこない。
不快なので片付けることにする。ペットボトルは給水用の1本だけを残して後は山荘に落ちていたゴミ袋に集めて山荘に残置。本当は持って帰りたいところだが、抱えて帰れる量ではないので勘弁。ティッシュは火ばさみでつかんでストーブに放り込む。更にポリタンクに水をくんで給水する。
そんなことをしていたら、初日から同宿だった男性にそんなボランティアみたいなこともするんですねと感心されたが、山小屋に泊まったら掃除して帰るの常識じゃないのと呆気にとられてしまった。
自転車を走らせゲートを目指す。ダムまでの間に3人ほどとすれ違う。
この日はイドンナップ山荘に泊まって、更にイドンナップノ沢へ継続しようと思っていたが、イドンナップ山荘は水が出ず、ストーブも無く寒く、トイレは・・・であまり泊まりたい気にならない。精神的にも体力的にもナメワッカでけっこういっぱいいっぱいになってしまったので、どうしようかと思っていたら、にわか雨がけっこう強めに降り始めたのでこれ幸いと吹っ切り、芽室小屋へと転身することとした。しかし、イドンナップ山荘から芽室小屋は遠かった・・・
雑感
北面直登沢は想像ほど極悪ではなかったが、久々に完全に未知の沢を遡行する緊張感も相まってなかなか手応えある遡行を楽しめた。もうちょっとスッキリした渓相ならメジャールートとなるポテンシャルも持っているが、美しさが足りないのが残念だ。西面直登沢は踏み跡の状態から見て、ナメワッカ岳への登路としてかなり使われているようだが、正直人に勧めたくなるよぅな渓相ではない。長いこと気になっていた北面直登沢を、案外すんなりと遡行してしまってホッとしたような、気が抜けたような。でも、この沢とて初遡行ではなく、きっとどこかに埋もれた記録が存在するんだろう。さりとて、忘れ去られた謎に満ちたルートを掘り起こす幸せが、日高には、まだ少しはある。