魔のシュンベツ川大函

ふ~ちゃん
目的
シュンベツ川大函遡行
日程
2007年08月15日(水)
山域
中日高

今年のお盆は記録的な猛暑だった。この糞暑い中、に行って水に浸からない手はない。しかし、その猛暑も今日一日。明日からは少し天気が崩れるそうである。アプローチも含めて今日一日で往復出来るような良い沢はないものだろうか。漁川や樽前ガローでお茶を濁しても良いが、正直その手のちんけな遊びを一人でする気にはなれない。そこで思いついたのが、先日のポンイドンナップ川遡行では簡単に巻いてしまったシュンベツ川大函の内部突破である。かなりお気楽に出かけた沢であるが、まさかあんな事が起きるとは。

装備

河原

夜明け前に家を出て西の林道を目指す。林道は前回より少しばかり荒れているようである。相変わらずゲートは開放されている。前回と同じ場所に車を残置して出発する。

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河原が広がる
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吊り橋の残骸がある

今回は林道終点まで歩かず、車を止めた出合で沢に降りる。出合左岸の尾根筋に明瞭な踏み跡が付いている。朝早くから太陽は強く照りつけている。出合付近は広い河原である。出発してすぐの左屈曲点の右岸には鉄製の階段が設けられ、沢には吊り橋の残骸が渡してある。その後もしばらくは河原が続くが、水量は多く下りは流れに身を任せて下れそうである。

前回は正確な読図をしなかったが、今回は大を突破するだけなので、出来るだけ正確な遡行図を書いていく。ソロアンナイ東面を流れるとなって落ちてくるところから少し行くと、沢はいよいよ函状となり始める。

下部ゴルジュ

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岩が転がる函

はじめのゴルジュ右岸には2カ所ほど怪しげなロープがぶら下がっているが、使い道がよくわからない。これらを使わずとも腰まで使って通過出来る。左岸から垂直のが落ちてくるのを見て北に向かうと、には巨大な岩が転がっている。沢の水圧は強く、左岸は絶壁で、右岸は崖崩れのデブリ(倒木の山)で埋められ面倒な通過となる。前回はデブリの上を通過したが、今回は出来るだけ水流を進む。

右岸から幾筋にも分かれて合流する枝沢を見て東に向かい、左岸からが落ちてくるのを見る。地図上の想定ではこのあたりからが『大』と呼ばれているところだと思っていた。たしかに、ゴルジュ状であることに違いはないが、さして難しくなく通過出来る。が少し北に向き始め、大山南西面から流れる沢がルンゼ状のとなって合流するところからが核心部である。

ところで、には私のものではない足跡が点々と続いていた。後でわかったものだが、3日ほど前に北大隊が通過したものだったらしい。

核心部

前回はここからあっさりと左岸を巻いてしまったが、今日は内部を進む。まずは幅いっぱいに広がるを膝までつかりながら進むが、前回より水圧が強いような気がする。の落ち口は真っ白に泡立って、私の泳力ではとうてい突破出来るはずもない。言っておくが、私は完全な金槌である。ライフジャケットやザックの浮力がなければこんなところで遊べる身分ではないのだ。

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核心部入り口
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続くゴルジュ

よくよく観察すると右岸側壁のホールドは豊富だ。今回2回目のサワーシューズはやはりフェルトのフリクションが弱く少々不安であるが、何とか通過する。その後もへつったり、水中を歩いたりして突破していく。へつりも水流突破も出来ないところは側壁テラスを通過出来る。それじゃ、内部突破じゃないじゃんと言う人もいるかも知れないが、泳げない身分上、水線にこだわっても無理なところは無理なので、その辺はあまりこだわらない。「植生をつかまなければ高巻きじゃない」というスタンスなので。


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中間部付近

スタートのを通過すれば、後はたいしたものは出てこないんじゃないかと思っていたが、そうは問屋がおろさなかった。広く緩やかに流れるを、つま先立ちで通過しようとしたが、足が浮いてしまいあっさりと水流に押し流された。ここはあきらめてテラスを行く。他にもテラスを行ったところで、クラックに入りながらすごい微妙なムーブでクライムダウンを強いられたりする。さらには足を滑らせたら白濁する淵に飲み込まれるだろうと言うところで 2m の幅跳びが3カ所ほど。


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もうすぐ終了
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右岸テラスから
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大函終了

白く沸き立つ長い水路を右岸テラスから通過すると、核心部終了を告げる大岩に出た。大きななどの派手なものはあまり出てこないゴルジュであるが、何せ水量が多いので見た目よりも困難な遡行となった。ほっとする場のないまま、約 1.5 時間ほどの遡行だった。あれ?前回の高巻き時と時間的にはあまり変わんないじゃん(^^;

大イワナ

その後もしばらくは状が続くが、幅は徐々に広がり、ゴーロ状となる。 Co340 の河原で今日の終点とする。焚き火をたいて釣りをするが、こういうところではなかなかカワゲラが見つからないのがイタい。魚影は見えないのであまりつれないかと思っていたら、1度 40cm 級の大物がかかるが、大物過ぎて糸が切れてしまった。逃した魚はでかい?ん、まあそうなんだけど、糸が切れるほどの大物だというのは確か。(まあ、 30cm 級だろうな。)

その後すぐに 15cm ほどの小物を釣り上げる。リリースしようと思ったが、がめつく針を飲み込んでしまった(私が下手なだけだけど)ので喰わざるをえなかった。そうこうしているうちに時間切れとなってきたので、焚き火を始末して下山を開始する。大イワナとの格闘は今度またいつかとしよう。

魔の

下りは流されるところが多いので、早いだろう。往路のテラスなどで苦戦したところはに飛び込めばあっという間だろう。わたしは皮下脂肪が薄く寒さに弱いので、普段はよほど暖かくなければ淵に飛び込むことはない。特に、泳力が無く単独行なので、巻き返しのあるや淵は本能的に避けてきた。しかし、この夏の暑さはそんな私の“臆病力”を無くさせていた。

何でもない所でも適当に水に浸かって流される。久々に気持ちのいい川下りである。大に突入してはじめのは瀑心の少し下から飛び込む。いったん頭まで沈み込んで浮かび上がる。首まで浮くが、日帰り装備で少々浮力が小さいとは感じていた。一気に流され、岸に上がる。水流が早いので、油断しているとそのまま次のに飲み込まれそうになる。

問題の右岸に沿って速い流れがあって、左岸が少し巻き返しているように見えた。少し嫌な感じだが、右岸の流れに乗ればあっという間に流されて問題ないように思えた。いつもの臆病な私なら、往路と同じようにテラスを通過しただろう。軽い気持ちで飛び込んで「やばい」と感じるまでいったい何秒あっただろうか。頭までいったん沈み込むところまでは想定内だった。ところが、いったん浮かび上がったかと思った体は再び沈み込んだ!!!3度目に沈み込んだ時にはすでに死んだと思った。ぐるぐると巻き込む流れに呑まれ、脱出不能になったと思えた。巻き返しの流れに呑まれた場合、足のつく小さなでも脱出困難なことがある。ましてやこれだけ強い流れに呑まれたら、自力で脱出出来るはずがない。周囲は白い泡が沸き立ち、自分が今、どちらを向いているかもわからない。人間、こうも簡単に死ぬんだな。今日中に帰ると言ったから、夜にはおかんが大騒ぎだな。ここで巻かれ続けたら、次に人が来るのはいつかな?なんて事を思いながらも、嫌だ、絶対こんな死に方はしたくないと心の中で叫んだ。とにかくあきらめずにもがくしか出来ない。一瞬気が遠くなりそうになった時、右手の先が岩にさわった。溺れたものはわらをもつかむと言うが、小さなホールドでも岩のどこかをつかめれば何とかなると瞬間的に感じた。とにかく両手をめいっぱい伸ばして岩を探した。

いったい、どれだけの時間だったのか、もしかしてほんの数秒の出来事で、端から見れば白く沸く水の流れに順調に流されてるだけだったかも知れない。呼吸を止めて流れに任せていれば、普通に下流に流れ着いていたかも知れない。必至でホールドをつかんだ右腕が体を引き上げた時、水路の出口近くまで流れていた。生きてるよ・・・。そう思って歩み出した右足ががくんと崩れ落ちた。全身に力が入らない。何とか近くの岩場によじ登り、倒れ込んだ。

不可抗力の事故ではない。ちゃんとした知識と、判断が有れば防げたことである。自分の未熟さと軽率さに呆れるやら情けないやら。生きていることにほっとしつつも激しい自己嫌悪に陥る。いつもエラそうなことばかり言っているが、自分が一番ダメ登山者だな。かっこわるい。

30分ほどして体を引き起こす。いつまでもこんなゴルジュの真ん中でマグロになっているわけにもいかない。気力を振り絞って歩き出す。気温はまだ高いが、さすがにもう、今日は泳ぐ気にはなれない。核心部は左岸の巻き道を行くことにする。ゴルジュ帯を抜け、河原に出るとフライフィッシングをしているお姉さんがいた。いつもなら「釣り屋かよ、ゲンナリ」と言うところだが、こういう時は誰でも人に会うのはほっとする。これが美人なお嬢さんだったらもっと良かったけど(ぉぃ。

教訓

今、冷静に分析すると、縦方向の渦を巻きながら上流から下流に向かう流れに呑まれたのだと思う。それによって沈浮上を繰り返しながら、下流に向かっていたが、水泡によって周囲視認や呼吸が困難になったためパニックを起こしてしまった。以上をふまえつつ、以下を教訓とする。

  • 本格的キャニオニングでは、日帰り装備の浮力だけでは足りない。
  • 泳げないヤツがむやみに沸き立つに飛び込んではならない。(たとえ浮力体を装備していたとしても)
  • 「大はたいしたことない」なんて言うとバチがあたる。
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