別にそう決めているわけではないが、アテネ以来オリンピックイヤーはおやぶんと沢登りが恒例となっている。今年は神威岳南東面と一八三九峰南面を計画したが、数日前の大雨で元浦川林道が閉鎖されて変更を余儀なくされた。その上、台風5号の接近により、変更した計画すら継続が怪しくなってしまった。とりあえず、台風5号の行方を見極めるべく、おやぶんが、時間が余ったら知人だった昨年黒岳北壁で滑落死した谷口ケイさんの追悼に行きたい、と言っていた黒岳へ行くことにした。それならば、ただ登山道を上るよりも、黒岳沢を遡行して遺体発見現場へ行こうと言うことになった。
メンバー
- ふ~ちゃん
- おやぶん
装備
- シャワークライムパック 30
- サワートレッカー RS
- ピック付きハンマー
- φ8.5mmx30mx2本
2016年08月06日(土)
千歳空港でおやぶんをピックアップし、駐車場でしばし打ち合わせをする。とりあえず予定を変更して黒岳へ行くことを確認して層雲峡へ向かう。我がおんぼろカーはエアコンが壊れているので、この夏一番の暑さだというのに窓を開けていく。
今日は移動のみとなったので特に慌てることはない。神居古潭で軽く観光などしつつ、酒と食料を買い込んで層雲峡の駐車場へ。屋根付き駐車場の一階は、屋根から何やらが落ちてくるので使用禁止になっていた。野営場で水を確保してから屋上に戻ってテントを張る。
夜にはすぐ近くで花火が上がる特等席であった。
2016年08月07日(日)
今日も天気は良い。駐車場に車を残して黒岳沢へ向かう。私はおニューのサワートレッカーを試す。おやぶんはアプローチシューズで出発したが、ものの15分で渡渉があってすぐに沢靴に履き替えることになった。
ひたすらガレと砂防ダムが続き、作業道も着いている。 Co880 付近からは踏跡状態になるが、砂防ダムはもうしばらく続く。ボロボロの崩壊地の壁をトラバースして砂防ダムを越え、ようやく沢に降りる。
沢に降りてもガレの河原が続く。正面に右岸枝沢からの滝を見て右に曲がると、一つ目の記号の滝が出てくる。少し登ってみたが、意外とヌルッとしていて滑りそうなので右岸のルンゼから小さく巻いた。この滝、なんか思ってたよりちっちぇえな。と思ってたら、後でネットで調べたら下半分埋まってた。
少し行くと二つ目の記号の滝がでてくる。小さくS字に屈曲したツルツルのはこの中に樋状の滝が3つ落ちている。もしかしたら4段かも知れない。水量も多く取付きようがないので、セオリー通りに左岸のルンゼから高巻く。
少し登って左にトラバースして尾根に乗ると踏跡らしき物も見える。そのまま踏跡に沿ってトラバースしながら斜面を下り沢に降りる。日が昇り、雪解けが進んで少しずつ水が濁ってきている。
何も無いガレを進んでいくと、雪渓が出てきてその奥は壁に囲まれた函になっている。幸い雪渓は安定している。雪渓を進みはこの中を右へ曲がると、滝が出てきた。これも登るのは面倒そうなのでそのまま左岸のルンゼを進む。
ルンゼの中には不安定なガレが詰まっており、ズルズル動いて恐い。下手をすると大量のガレが雪崩を起こしそうだ。左の壁へトラバースして中間尾根に上がる。壁はツルツルでラッペルしかなさそうだ。
捨て縄をしてロープを垂らす。上から見ると平らな所まで届いたかに見えたが、降りてみるとあと
数メートルほど足りない。がんばればクライムダウンできなくもなさそうだが、ロープの回収が面倒だ。
仕方がないのでプルージックで登り返し、届きそうな位置のダケカンバでセルフビレイを取る。垂直の壁でなくて助かった。おやぶんに短いラッペルで降りてきてもらい、ロープをかけ替えるとギリギリ届いた。いつもの感じでは余裕で届きそうなのだが、渓相が違うと距離感も変わってくる物なのだな。
降りた所は Co1300 黒岳北面直登ルンゼ出合で、目的の谷口ケイさんの遺体発見現場と思われる。直登ルンゼはハングした100m級の涸滝が連なって頂上に向かって突き上げている。
時々上部からごろんごろんと音を立てて岩が落ちてくるので、上部に気を遣いながらザックを下ろし、北稜を見上げる位置に持ってきた線香に火をつける。余った線香を持ち帰ってもしょうがないので、ここまで来られない人達のためと全てに火をつけて盛大に煙を上げる。
供えた大福を食べ、再出発。本流は雪渓で埋められている。 Co1420 二股下部では分厚い雪渓の上に大量のガレが乗っかていた。どうやら中間尾根の壁が最近崩落したのではないだろうか。
右へ進み雪渓を降りると、ガレの合間に滝らしき物も出てきて、あえてのシャワーも交えて登っていくが、岩が脆くてボロボロ崩れて楽しくない。
次の Co1520 二股は何も考えずに左に進んだが、スノーブリッヂの先は障壁となって正面は湧水の滝、本流は左に曲がってチムニーの滝となって落ちている。どうやらみんなが行っているのはさっきの所も右へ進むのか。がんばれば越えられそうだけど、もうなんか脆い岩とガレにやられてそんな気分じゃないんだよなあ。かといって、先の雪渓を戻るのもなあ。と言うことで、中間尾根を乗っ越そうと思ったが、こちらも壁が立って降りられず。と言うことで尾根を下って二股付近で沢に戻って右へ進む。ヘタレオヤジコンビは逃げられるときは逃げる。
こちらはほぼ純なガレ沢。左岸の壁から湧水がわき出ている所から急な雪渓となるので軽アイゼンを付けるが、軽アイゼンを付けた所でおっかない角度。これはピッケルと6本詰めが必要なレベル。ハンマーのピックを突き刺しながらだましだまし登る。最後は壁に囲まれて終わりそうだったので、少し手前で右岸から尾根を乗っ越して、石室に直接出る左股へ再び乗っ越したが、これまた植生が無いボロボロの壁で一苦労。こちらもやはり最後は急な雪渓で終わっていた。
石室で涼しいかっこうに着替え、登山道を下る。当然のことながら道は登山客で一杯だ。標高が下がるにつれてどんどん気温が上がり、汗が湧き出してくる。リフトは使わずにロープウェイ駅まで降りた所でどうするかと言うことになったが、暑いし、これから長距離を移動することを考えると時間がもったいないと言うことでロープウェイを使って降りることにした。
下山後に岩間温泉に立ち寄ると、いつもの常連のおじさんが居た。帯広市内で少し買い出しをして中札内の道の駅に到着。長い1日だった。
雑感
黒岳沢はやはり面白いとは到底言いがたい沢だった。今回は雪渓が安定していたのでさほどの苦労は無かったが、壁のもろさとガレの不安定さには辟易する。この上、融雪が進んで垂直のぼろ壁と落ちそうなスノーブリッジとの格闘が追加されると思うと一体何が楽しいのかと思う。むしろ雪渓の安定しているこの時期までに遡行し、一般的な一番右のルートを除く3本のルンゼのいずれかを登攀するのが良いのでは無かろうか。