何年か前から、沢登りに使うロープは、30mのツインロープという風潮があり、自分自身もしばらくはそれを信じて使ってきたのだけれど、最近疑問を抱いている。実際、沢登りでツインロープを使う明確な理由を示したサイトや文献は見当たらない。
そもそもツインロープとは
正直言うと、あまりクライミングの世界には興味がなく、ロープの種類には1本で使うシングルロープと2本で使うダブルロープがあるくらいの認識しかなかった。それが、近年インターネットの発達で、ロープに関する記事などを読むにつれ、ツインロープって何か違うんじゃないかという気がしてきた。
そもそもツインロープとは何か。
シングルロープは、その名の通り、1本だけで利用する。1本でも十分な耐衝撃特性を持つために、当然径は太く、重量が重い。また、懸垂下降時には登れる距離の半分の距離しか下れない。そのため、シングルロープは室内クライミングや、ゲレンデのフリークライミングで利用されるのが主なのであろう。
かつてダブルロープと呼ばれたハーフロープは、2本のロープを交互に1本ずつプロテクションにかけて利用する。シングルロープよりは径が細く、軽いと言うだけでなく、プロテクションのかけ方により、屈曲するルートでもロープが流れやすいという特性がある。当然、登れる距離と同じ距離だけ下降できる。日本では自然の岩場を登るいわゆるアルパインクライミングなどで多く利用されているらしい。
ツインロープは、2本のロープを束ねて2本とも一緒にプロテクションにかけて利用する。これはロープが2本になっただけで、使い方はほぼシングルロープと同じと考えて良い。では、ツインロープの利点は何かというと、下降時に登れる距離と同じだけ下降できるという点と、携行時には二人で1本ずつ持てば重量を分散出来るという他にメリットを感じられない。その上、プロテクションに2本ともかけるので、1本ずつ引き上げると、ロープ同士が擦れてしまうので3人以上のパーティでは使いにくい。アイスクライミングでよく使われるみたいな話を聞くことがあるが、その理由はよくわからない。
どんなロープが沢登りに向くか
真っ先に思いつくのは難しい滝の登攀だ。自然の滝には当然プロテクションなどという物は無く、自分でハーケンなどを打ち込んでプロテクションを作っていくことになる。ルートを探りながら登ることになるので、時には右へ左へルートが屈曲することがある。そうなると、アルパインクライミング同様、ハーフロープを利用するのがより安全ではなかろうか。
また、高巻きでもロープが必要となることがあるが、これは大概は初心者をフォローするもので、リードクライミングを伴わない。難しい沢の高巻きでロープが必要となる場合はアルパインクライミングそのものであろう。
あるいは、泳ぎのあるゴルジュでは、水に浮くフローティングロープの利用が推奨されるが、これは耐衝撃性能を持たないので、クライミングロープとは別に用意すべきである。
いずれにしても、ツインロープである必要性はこれと言って思いつかないのである。
なぜツインロープになったか
じゃあ、何でツインロープが使われるようになったのか?ぱっと思いつく理由は軽量化に他ならない。沢登りでは、難所を通過するとき以外はほとんどロープを使わない。しかも、一度使うと水を吸って非常に重くなる。だから、沢屋にとってロープの軽量化は非常に重要だ。
まず、30mと言う数字は、多くの沢屋が経験的にそれぐらいの長さで必要十分と考える数字なのであろう。滝の登攀といえど、20mを越えるような滝は直登せずに高巻くのが一般的なので、結果それ以上の長さのロープは必要ないし、懸垂下降時もそれくらいあればほとんどは事足りるのである。
だから30m以上の長さのロープは沢屋にとってただの重荷でしかないのである。また、クライミングロープとして売られているロープの中で、最も軽量なのはだいたいφ8mmくらいの物である。そして、それは大概ツインロープである。また、何よりも、30mという商品展開があるのがツインロープしかないのである。
よって、「30m」「φ8mm」「クライミングロープ」というキーワードから「ツインロープ」と言うのが導き出されたのではないかと思えてならない。
結果何が良いか
滝の登攀などを伴う、ある程度難しい沢ではハーフロープを携行するのが当たり前の結論のような気がする。もっとも、リードクライミングを伴うような沢はほんの一握りで、ほとんどはリーダーが後続を引き上げるような使い方(いわゆるゴボウ)しかしないので、そういうところではいわゆる補助ロープというので十分なのかも知れない。ただ、補助ロープで懸垂下降をするのはどうなんだという疑問もある。
そう言ったわけで、どちらにしろハーフロープを使うのが無難であるという結論であるが、60mで売られているロープを沢登りで使い勝手の良い30mに切断した場合、カタログ通りのスペックを発揮するのかどうかがわからないというあたりが悩ましい限りである。