胎内川~二ツ峰

ふ~ちゃん
目的
胎内川東俣沢坂上沢大黒沢遡行
日程
2004年08月13日(金) - 15日(日)
山域
飯豊連峰

2年ぶりにおやぶんと胎内川東俣を目指すことになった。胎内川東俣はおやぶんが何年も前から計画し、何度も遡行を試みてきたがことごとく悪天などで諦めてきたである。私自身も2年前におやぶんに誘われてこの地を訪れたが、大雨で諦めて大ビラヤス川に変更した因縁の沢である。今回は会津山岳会の一人を加えた3人で遡行する予定であったが、足を捻挫したとこのことで直前のキャンセルとなり、結局2人だけとなった。そして週間予報では核心通過日の悪天を示している。胎内川の呪いは未だ健在なのだろうか。

行程

2004-08-13
胎内小屋~胎内川~胎内川西俣出合 C1
2004-08-14
C1~胎内川東俣沢~坂上~大黒沢出合 C2
2004-08-15
C2~二ツ峰~胎内尾根~胎内小屋 下山

メンバー

C.L
おやぶん
S.L
ふ~ちゃん

装備

2004年08月11日(水) フェリー出発

バスでフェリーターミナルまで行くつもりだったが、オヤジが送ってくれるというので送ってもらう。沼ノ端のセブンイレブンで飲み物と食料を買い込み、フェリーターミナルへ向かう。少し早めに行ったつもりだったが、入場口は既に長蛇の列。今さら慌てても良い席は取れないだろうから、ベンチに座ってのんびりと入場の時を待つ。

ほぼ全ての人の入場が終了し、落ち着いたところで入場。家族連れが多そうな部屋に入る。とりあえずフェリー内を見学してまわる。これといって楽しめそうな物はない。風呂は満員で、入る気が失せる。後部デッキで持参したビールを2本開けて、ほろ酔いと船酔いがちょうどよく判別できなくなったところで倒れるように眠りについた。

2004年08月12日(木) フェリーターミナル~胎内登山口

昨日は早くに眠りについたので、早々に目が覚める。時間つぶしにホールに行ってテレビなど見るも、面白い番組はやっていない。新聞を開いても、たいした時間つぶしにはならない。シアターでハリーポッターをやるというので、行ってみるが、媒体がVHSで画像は悪いし、サイズが4×3だし、音声は吹き替え。その上、席がフラットなため、前の人の頭でろくに画面が見えない。こんななら家でDVDで見た方が遙かに良いので、すぐに退室する。あまりにも時間をもてあましてしまったので、仕方なく売店でクロスワードパズルの雑誌を購入する。その後は新潟入港まで部屋に寝転がってクロスワードパズルに没頭する。

フェリーから下船し、しばらくフェリーターミナルでぼんやりと過ごすが、あまりにも暇をもてあましてしまったので、バスで新潟駅まで移動する。とりあえずオヤブンに待ち合わせ場所変更の電話をすると、到着するのは22時を過ぎるとのこと。近くのメシ屋で夕食を取って、結局再びクロスワードに没頭する。

ようやくおやぶんと合流して出発する。またも新発田市内で道に迷ったりしつつ胎内登山口に到着する。車から降りると、外は妙に肌寒い。猛暑だと聞いていたのだが、ここだけは違うのだろうか。まさかこんなに寒いとは思っても見なかったので、服装や就寝具は暑さ対策はしてきても、寒さ対策は何もしてこなかった。出発前から不安材料が山積みだが、果たして無事に遡行できるだろうか。駐車場にテントを張り、成功を祈ってビールで乾杯して就寝する。

2004年08月13日(金) 胎内登山口~西俣出合

タイムレコード
時刻天候場所行動
05:00快晴起床
07:00出発
07:55橋の下
09:00Co385
10:05センノ木出合
12:15西俣出合C1

夏の本州だというのに、猛烈に寒い。この寒さはいったい何なんだ。一体猛暑はどこへ行ってしまったんだ。これも胎内の呪いの一環なのか。あまりの寒さのためか、警戒していたアブもさっぱり寄ってこない。アブが寄ってこないのは大変ありがたいのだが、なんだか複雑な気分だ。テントの外でなにやらカチャカチャと音がするので、覗いてみると、クライミングギアをぶら下げた4人パーティが出発するところであった。彼らはどこへ行くのだろう。

板のない吊り橋[image/jpeg:229kB]
板のない吊り橋

今回は日程が限られてるので、楢ノ木出合まで巻き道を行くことにする。登山口にはダム工事の発破作業注意の看板が立てられている。お盆ではあるが、今日はまだ平日なので作業がある可能性もある。出来れば作業員が来る前に現場を通過したい。登山口の吊り橋を渡り、少し胎内尾根を登り、胎内川右岸沿いにつけられたはっきりした苅分道を進んでいく。奥胎内ダム建設現場のすぐ下で、吊り橋を使って右岸から左岸に渡るが、この吊り橋は板が外されており、2本のワイヤーを使っての綱渡りとなる。おやぶんは平気な顔で渡っていくが、私はあまりの怖さに悲鳴を上げながらようやっと渡る。直登で高度感があるのは平気だが、何故かこういうのは苦手だ。ちなみに、この橋の下にはダムの放水口と思われるトンネルが完成していた。

着々と建設が進むダムの工事現場を通過し、胎内川にかけられた橋の桁付近からいったん川に降りて一休み。再び左岸沿いの苅分道に入り楢ノ木出合まで進む。巻き道から見える沢床は、以前来たときよりも遙かに砂利に埋められている印象だ。前回楢ノ木沢遡行の時の半分の時間で楢ノ木沢出合に到着。そこから沢に降りて進む。


Co390 ニセ浦島の廊下[image/jpeg:136kB]
Co390 ニセ浦島の廊下

は延々とゴルジュ状の地形が進むが、沢床はほとんど砂利で埋められており、深くとも腰までの渡渉で全て内部を通過していく。浦島の廊下は両岸が高くそそり立って威圧感があるが、正面から朝日が当たり、明るく美しい。ここも泳ぐことなく通過し、Co410の右曲点で、流木と石のつまったダムを右岸テラスから越えると、ここから先は滝沢出合付近までは開けた渓相となる。

上流で釣りをするために時々石をひっくり返し、餌となるヤゴを取っていくが、既にほとんどが羽化してしまい、抜け殻だらけでなかなか集まらない。やはり、あまりけちけちしないで餌ぐらい買ってきた方が良かっただろうか。魚影は時々小さなイワナが足下を走り抜けるが、それほど濃くない。時々現れる砂地には先行者の足跡がはっきりと付けられている。どうやら先行パーティも東股を目指しているようだ。


続くゴルジュ[image/jpeg:144kB]
続くゴルジュ

滝沢出合ゴルジュを過ぎると、川は一気に開け、団子河原と言われる場所に出る。ここから天場まではすぐだろうから、釣りをしながらのんびり進むことにする。竿を忘れたおやぶんは後ろから退屈そうに付いてくる。魚影はあるが、やはり北海道のように簡単にはつり上がらない。それでもなんとか、まずは団子河原で1匹をつり上げる。

その後も断続するの中で釣り糸を垂らしていくが、魚影もアタリもなく、西俣出合に到着する。本流右岸テラス天場を決め、薪集めをおやぶんに任せ私は釣りに行く。まずは東俣出合ので釣り糸を垂らす。小さな魚影が一つ見えるが、なかなか食いついてくれない。30分ほど粘ってそろそろ場所を変えようかと思った頃、ようやく小さなイワナを釣り上げる。あまりにも小さかったので、一瞬リリースしようかとも思ったが、針を飲み込んでしまっていたので、キープする。

その後もそのでしばらく針を垂らすが、架かる気配がないので、西俣や本流下流に足をのばすが、なんだか全くかかる気配がない。そのうち全て餌も消費してしまい、時間も遅くなったので今日の所は2匹で諦めるしかなさそうだ。

焚き火をおこし、木を削ってイワナを串刺しにして塩焼きにする。小さなイワナで満腹というわけにはいかないが、苦労してつり上げた獲物は最高にうまい。夕食はα米の赤飯にレトルトカレー。ちょっと微妙な味覚だ。更におやぶんのザックからはスルメなど思ったより豊富なつまみが出てくる。もっとひもじい山行になるかと思っていたのだが、かなり満腹でいい気分になる。

おやぶんは膝を少し痛めたようで、しきりにストレッチしている。空には星がちりばめられているが、ラジオは明日の悪天を告げている。

2004年08月14日(土) 東俣~大黒沢

タイムレコード
時刻天候場所行動
04:30曇り起床
05:30天気待ち
06:50出発
09:20龍の棲む懸垂下降天気待ち
10:00
11:35曇りCo660
16:00Co900C2

東俣

朝方、寒さに目が覚め、消えていた焚き火に火をつけて暖まる。まさか必要だとは思わなかったし、荷物になるので、シュラフを持ってこなかったのだが、こんなことなら多少重たくても持ってくるべきだった。夜が明けても雨は降っていなかったので、出発の準備をするが、ついにぽつりぽつりと始まる。そのうち本降りになってきたので、いったん出発を見合わせ、ツェルトの下で天気待ちをするが、晴れる気配はない。しかし、このまま停滞となると大黒遡行は難しくなる。小降りになったところで意を決して出発する。

Co515-520[image/jpeg:102kB]
Co515-520
Co520-530[image/jpeg:129kB]
Co520-530

出合を通り過ぎて(Co510)右に曲がると陰鬱なゴルジュとなるが、難なく通過、突き当たりを左に曲がって流木が頭上に架かるを水流をまたいで直登する(Co515-520)と、魚止めのとなる。これは右岸カンテを登る(Co520-530)。しばらくは広い川幅に小さな滝がいくつか出てくるが、意外と手応えがないなと思いながら通過していく。Co560でを右に曲がると真四角な堰堤の滝が現れる。

堰堤の

Co560 堰堤の滝[image/jpeg:180kB]
Co560 堰堤の滝

壁はツルツルした垂直の壁で、側壁も高く垂直に切り立っており、いかにも通過は困難そうである。しかし、よく見ると右岸の水流の中はホールドが豊富そうだ。ロープをつけ、深いの縁を泳ぎ、水流に取り付く。取り付きはもろに頭から水をあび、上を見ると呼吸が出来ない。顔をしたに向けて頭の下に呼吸する空間を作りながら手探りで上部のホールドを探し、水圧に吹き飛ばされないようになんとか体を上げる。

の上にも更に広いが広がっている。の落ち口でハーケンを打ち込み、確保するためにATCを取ろうと、腰にごちゃごちゃとぶら下がっている物を外したりつけたりしていると、いつの間にかATCが見あたらなくなる。エイト環と一緒にカラビナにかけていたのだが、どうやらゲートを開けたときに落っことしてしまったようだ。買ったばかりのATCで、一度も使わずして滝壺の藻くずとなってしまった。このショックはでかい。気を取り直してエイト環を使っておやぶんを引き上げる(Co560堰堤)。

1回目の大高巻

Co570直瀑[image/jpeg:159kB]
Co570直瀑

更に側壁の切り立ったが出てくるが、記録上何も書いていないと言うことはすんなり通過したようだ(Co570直瀑)。これを過ぎると、いよいよ切り立ったの中に威圧感のあるが出現する。どこかに突破口はないかとしばし眺めるが、ここはセオリー通り右岸高巻くことにする。

岩壁を慎重に攀じると、先行者の踏み跡らしき物があるので、それに沿って灌木帯をトラバースしていく。小さな尾根筋に出たところで、踏み跡が不明瞭になる。の中には険悪そうなゴルジュが続き、このまままとめて巻いてしまいそうなところだが、斜面は更に険相な岩稜の連続で、巻きに入ったが最後沢に復帰できそうにない。必ずこの付近に残置シュリンゲがあるはずだと上下を探すと、少し下がったところに残置シュリンゲがあったのでそれを利用してアプザイレンして沢に復帰する(Co575函滝)。

胎内潜り~龍の棲む

胎内潜り[image/jpeg:159kB]
胎内潜り
Co600 龍の棲む滝[image/jpeg:146kB]
Co600 龍の棲む滝

ついに東俣最大の核心部のゴルジュに突入する。おそるおそる近づき、の中を覗いてみるが、どうも埋まり気味で底が見える。時折強く降る雨で水は増水気味でやや濁り始めているが、水深は胸までが精一杯である。逆くの字のゴルジュとやらも、一体何処だったのかイマイチよく分からない。こんなはずはない、きっと何かがあるはずだと半信半疑で通過していくと、すんなりと龍が棲むというに到着してしまう。しかし、偉い格好の良い名前が付いているが、私には単なる巨岩のチョックストンにしか見えない。濁り気味のを泳いでまでハングしたチョックストンを登る気にはなれないので、セオリー通り右岸の巻きに突入する(Co600龍の棲む)。

先ほどのと同様、右岸の岩壁を攀じり、灌木帯をトラバースしていく。この巻きの途中にゴミが散乱している場所があった。周囲の草が刈られ、ビバークか長休した後にゴミを捨てていったようだ。とても同じ屋の所業だとは思いたくない。雨が少し強く降り始めたのでどこかに雨宿りを出来るところがないかと探しながら進むと、下降点の残置シュリンゲを見つける。ちょうど張り出した岩があって雨宿りが出来そうなので、ここでツェルトを被って休憩もかねてしばし天気待ちをする。

十字峡

ツェルトのベンチシートからを観察していると、右岸河原に焚き火跡らしき物が見える。もしかしたら、あんなところで天張ったのだろうか。そして、更に奥、本源沢にはいかにも険悪そうなが続いている。

雨は霧雨になったり、時折強く降ったりと断続的に降り続ける。しかし、今日のところは濁流まではしそうにない。ツェルトの中で体も温まったし、ここでぼんやり過ごしてもらちがあかないので、意を決して出発する。ザイルを垂らし、に復帰して先ほど確認した焚き火らしき物を見ると、やはり天場跡だった(Co610)。

ここから十字峡までは右岸に険相な岩稜がそびえているが、床はほとんど河原である。西俣出合から十字峡まで実質行動時間2時間強である。予定では5~6時間の行動時間を覚悟していたので、あまりのあっけなさに拍子抜けしながら坂上沢に突入する。一体この数年で胎内川に何があったのか分からないが、下流部からこの十字峡までの埋没が進んでいることは間違いない。それとも我々が東俣沢を買い被りすぎていたのだろうか?

坂上

ビン底の

Co620 ビンの函滝[image/jpeg:122kB]
Co620 ビンの函滝

坂上に入ると、ひんやりした空気と霧が立ちこめてくる。これは間違いなく雪渓がある。小さなを登り、沢を左に曲がるとやはり狭いの中に雪がつまっている。雪渓の先は曲がりくねった深いゴルジュの中に登れそうにない直瀑がかかっている。少し戻って雪渓から右岸の側壁に取り付くが、微妙な傾斜のテラスの上はスラブ状でホールドは少なく、なかなか突破口が見いだせない。テラスをトラバースして身に近づくが、ツルツルの側壁がハングしてビールビンの内側の様で先に進めない。そこからカンテを登れば上の灌木帯に出られそうだが、ホールドが微妙だ。

どうしようかと考えていると、おやぶんが空身で行くと言うのでここはまかせることにする。おやぶんがザックを置いて空身でカンテを登っていく。3mほど登ったところでハーケンを打ち込んで1本目のピンを取る。そこを上がったところで、いったんザックを引き上げる。その先は草付きになっておりアイスハーケンを取り出してよじ登り、上の灌木で支点をとる。上部は傾斜のある草付きで、慎重に足下を確認しながらトラバースして2つ目のの上部に出る(Co620-645函滝二段)。2段目を上から覗くと、3面ツルツルでたとえ1段目を直登でクリアしても、引き返す羽目になりそうだ。

恵比須出合まで

Co655[image/jpeg:168kB]
Co655
Co666釜滝[image/jpeg:172kB]
Co666釜滝

狭い状の中の滑滝を通過し、を右に曲がるとを持ったが連続してくる。まずは左岸から泳いで身に取り付く(Co660釜滝)。次のは写真で見るところ、右岸へつった様だ(Co663釜滝)。3つ目の物は右岸から釜を泳いで水流下に取り付くが、強い水流が真上からあたり、体が上がらない。いったん引き返してザックを置いて空身でクリアーする。ロープでザックを引き上げるが、ザックが強い水流に引きはがされ、引き上げに苦労する(Co666釜滝)。次の壁に挟まれた滝は直登できそうもないので左岸のルンゼをよじ登り、悪い草付きをごまかしながら攀じり、灌木でピンを取りおやぶんを引き上げる。そこからおやぶんに草付きをトラバースさせて滝の落ち口に降りる(Co675釜滝)。


Co750 泳いで取り付く滝(おやぶん撮影)[image/jpeg:97kB]
Co750 泳いで取り付く滝(おやぶん撮影)

の上に庇の様に覆い被さった岩の下でポーズを取って、正面にガレを見て右に曲がるとさらに手応えのあるが連続する。左岸へつって凹角を登り直上する(Co710-720)。次の滝は左岸の草付きを攀じり、滝の上のルンゼトラバースして沢身に降りる(Co730)。小滝が連続し、大きなを持った滝をロープをつけて左岸を泳いで取り付き、水流左岸のカンテを登る。登ってみると思ったよりも難しくなかったので、支点を取らずにロープを引く(Co750-760)。沢を右に曲がるとゴーロ状となり、しばらく続く。恵比須沢出合は強烈な滝になっている。大きな岩を左岸のルンゼから巻いていくと、草付きのテラスが大きく苅り分けられ、真新しいビバーク跡となっている。 どうやら我々よりも [http://www13.ocn.ne.jp/~mt23/sawa/tainai.html 先に大黒沢を目指しているパーティ] がある様だ。

微妙なトラバース函滝

Co820 函滝(おやぶん撮影)[image/jpeg:74kB]
Co820 函滝(おやぶん撮影)

さすがに核心も過ぎたかと思いきや、難しいはまだ続いていた。ゴーロを抜けて始めに出てくるは落ち口の右岸に凹角のテラスを持っており、そこに行けばうまく通過できそうである。とりあえず右岸側壁のカンテを登ると、テラスに抜けるトラバースは微妙な傾斜のスラブに、つぶつぶのホールドである。そのままカンテを上に進めば、灌木帯を巻けそうであるが、更に傾斜が強くそのままロープ無しで抜けるのは厳しそうである。目の前には残置ハーケンがあるが、ロープをつけてこなかったので、その場でピンを取ることは出来ない。

少々微妙であるが、地下足袋の指先をわずかなフットホールドに食い込ませ、一気にテラスへ抜ける。足下はツルツルでさえぎる物は何もなく落ち込んでおり、足を滑らせれば一気に壺にたたきつけられることは間違いない。この遡行で一番の緊張が走る。広いテラスに出てザックを下ろし、ザイルを出しておやぶんのいるところまで垂らすが、テラスからだと落ちた場合振られてしまうので、カンテ上にあった残置ハーケンを利用してランナーとする。

テラスから上部はトラバースしたスラブに続くカンテの頭上にチョックストンが乗っかり、やや被り気味となっている。カンテ右手のの落ち口は微妙なホールドで抜けられそうであるが、ハングしたチョックストンの下は一気に壺まで落ちており、思い切りが付かない。カンテ左手は涸れたチムニーの上にチョックストンが大きく張り出しているが、両手両足を思い切って広げチムニーで登り、手を上に伸ばすと微妙ながらホールドがあったので、こちら側なら落ちてもたいしたことはないので、懸垂で登り切る(Co820-830函滝)。

ツルツルスラブ上のチョック

Co870 滑滝 Co880 チョックストン[image/jpeg:188kB]
Co870 滑滝 Co880 チョックストン
Co880 チョックストン(おやぶん撮影)[image/jpeg:82kB]
Co880 チョックストン(おやぶん撮影)

登りごたえのあるをいくつかシャワーで通過していくと、3m弱の傾斜のあるスラブの上に乗っかったチョックストンが出てくる。チョックストンの右側に水流があり、左側は腰の高さのホールドのない段差の上にスラブが続いている。チョックの右側はハングした強い水流で取り付けない。左側はホールドがなく直接取り付くことは出来ない。チョックとスラブの間には体一つを入れる空間があり、そこから取り付けばなんとかか左のスラブを登ることが出来そうだ。しかし、チョック下の空間は狭く、ザックを担いだままでは身動きが取れない。ザックを下ろし、空身でスラブとチョックの下に入り、這いつくばって左手のスラブへと抜ける。空身であればどうと言うことはない。自分のザックとおやぶんのザックを引き上げる(Co880チョックストン)。

ビバーク

Co890[image/jpeg:160kB]
Co890

更に滑滝直登していくと、二股手前の左岸に草を刈り払えばなんとか一張りできそうな平地がある。ひとまずザックをそこに置いて、上部に天場適地はないか偵察に行く。本流を進むと、は左に曲がり、ハングしたが行く手を阻んでいる。右股に行ってみると、開けた渓相であるが、平地はなく天場になりそうなところはない。

やはり先ほどの平地を天場に決め、薪を拾いながら戻る。草を苅り分け、流木を使って地面を整地するとそこそこの天場に仕上がった。更に雨が降ったときのために、一段上の台地の草も刈っておく。

2004年08月15日(日) 大黒~胎内尾根

タイムレコード
時刻天候場所行動
04:30起床
06:40出発
09:15Co1160
12:05二ツ峰
13:20
19:20胎内登山口下山

深夜から時々雨が降る。焚き火の火が消えないように2度ほど薪をくめる。1度目に起きたときに目がさえたので、ラジオを聞くと、谷亮子と野村忠宏が金メダルを取ったと伝えている。朝になっても雨模様であるが、それほど強くないので出発の準備をする。雲は高く、海の方には青空も見える。天候は回復傾向のようだ。

大黒

連瀑高巻

大黒沢出合[image/jpeg:167kB]
大黒沢出合
Co940-960連瀑[image/jpeg:209kB]
Co940-960連瀑
Co960 連瀑[image/jpeg:185kB]
Co960 連瀑

出合ハングしており、直登ルートを探す気にもなれない。左岸ルンゼを登り、灌木帯をトラバースして大きく巻いていく。しばらく進んでも身が見えないので、尾根筋を少し下っていくと、狭い状の中にツルツルのが連続しているのが見える。これは降りるとハマりそうなので、沢には降りずにそのまま急な灌木の斜面をトラバースしていく。沢が右にカープするところで、河原が見えたのでいったんアプザイレンで沢に降りる。上から下を覗いてみると、足下の滝は高くはないものの、ツルツルで、とても登れそうにない(Co940-960連瀑)。その先は更に狭く切り立ったゴルジュの中にハングしたチョックストンが連続し、行く手を阻んでいる。左岸の斜面は急斜面が続き、沢が右にカーブしているため、先の様子がよく分からないのでそこからは右岸を巻くことにする。枯れた枝沢の滝を登り、草付きのバンドをトラバースしていく。ルンゼを一つまたぎ、沢が左にカーブするところでアプザイレンで沢に復帰する(Co960-980函滝連瀑チョックストン)。

大滝

Co1020-1040樋滝[image/jpeg:212kB]
Co1020-1040樋滝
Co1050-1120大滝[image/jpeg:157kB]
Co1050-1120大滝
Co1050-1120大滝[image/jpeg:178kB]
Co1050-1120大滝
Co1100 大滝[image/jpeg:111kB]
Co1100 大滝

出合からこんなに強烈なが連続して、行く手には何が待ちかまえているのかと思ったが、このの核心はここまでであった。Co1020で沢が左に曲がり、右岸から壁が突きだした滝は左岸ルンゼから流心左岸のカンテに上がって越える(Co1020-1040樋滝)。そして、落差50mを越える大滝が現れ、圧倒的な威圧感で空に向かって突き上げているが、ホールドは豊富な滑滝で、高度感を楽しみながら直登する。(Co1050-1120大滝)。落ち口の樋状を登り切ると、すぐにを持った滝が現れるが、シャワーをあびながら楽しく直登できる。

上部つめ~稜線

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Co1100
Co1120[image/jpeg:173kB]
Co1120
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Co1140

さらに一見難しそうなが連続するが、いずれもよく観察すればホールドが豊富で楽しく直登できる。 Co1180 でチョックストンを巻くが、あとは楽しいシャワークライミングの連続だ。そして、逆層でどうしても直登できない右岸から巻く(Co1270-1280)と、滝らしい滝は終わりとなる。それにしても、天気はそれほど悪くないのに猛烈に寒い。今年は北海道でもシャワーをあびてもそれほど寒い思いはしなかったが、今日はシャワーをあびたあとはぶるぶると震える。温度計を見ると、気温は13度。とても本州の山の気温ではない。

Co1300三股を右に入ると、水はほとんど涸れてつめの様相だ。Co1430を左に入りそうになるが、どうも方向性がおかしいので戻って右の型に入り直す。岩盤状の沢型は切り立った斜面の藪の中に消える。いったん左手の尾根筋に進むと、更に左に上部へ続く沢型が見えるので、そちらの沢筋に降りる。降りたところの下部は藪が覆い被さっており、下からは見落としたのか、もしくはそもそも沢型は途切れているのかもしれない。その沢筋を詰めていくと、すぐに藪の中に消えていったので、シカ道と思われる踏み跡をたどると、主稜線に出た。

二ツ峰

結局、どれが正しいつめか分からず、予定よりはやや南側に出たが、藪漕ぎはほとんどなかったので、結果オーライと言うことにしておこう。主稜線には踏み跡がなく、しばらく藪漕ぎが続きそうだ。北股川の源頭はもう少しピーク近くまで続いており、多少は距離が稼げそうである。いったん北股川に降りて登り返す。突き当たりの岩壁を木登りで主稜に復帰し、10分ほど藪を漕ぎピークへ到達する。

ついに念願の胎内川本流遡行を成し遂げたわけだが、核心部での悪天もあってか、おやぶんの顔には達成感と言うよりも、安堵感が見て伺える。あいにくの気圧配置で、すっきりとした晴天とはいかないが、流れる雲の中に北股岳が顔を出す。隣の門内岳の付近には、数人の登山客の姿が見える。

地獄の胎内尾根

あとは尾根を下るだけである。記録では6時間かかっていることもあるようだが、順調にいけばそんなにかかるわけがない。たかをくくっていた我々はひとまずコーヒーを沸かしてくつろいでからのんびりと出発。しかし、先人の言うことは聞くものである。この山行の最大の核心は実はこの先に待ち受けていた。登山道・・・であったと思われる踏み跡・・・は不明瞭で藪で寸断されており、半ば藪漕ぎ状態で進むこととなる。1ピッチでわずかにP1548までしか進むことが出来ない。

その後は多少道ははっきりするものの、ブッシュが覆って足下が見えず、スピードを上げることが出来ない。1ピッチで滝沢峰とのコルまで行くのが精一杯だ。急斜面の峰を登り返すとその先は細い岩稜帯となる。この悪場を過ぎて標高も1000m近くになると、尾根も広く道も良くなってくるが、我々には既にスピードを上げる余力は残っていなかった。おやぶんは膝に不安を抱えているし、私は右のふくらはぎがパツンパツンになって、今にもつりそうだ。

低温ででは苦しめられたが、おかげで尾根上ではちょうど良い気温である。しかし、この寒気団の影響だろうか、ふと北の海上を見つめるとなにやら白いひも状のものが空から海へと伸びている。竜巻である。上空にある黒い雲が日本海の水を勢いよく吸い上げている。あの雲がこちらに向かってきたらたまったものではない。

やっとついた・・・

それにしても歩けども歩けども下界が近づかない。体力的には既にビバークしようと言い出したいところだが、行動食も残りわずかで、水もあと500ml強しかない。つらくとも先に進むしかない。出来れば日の出てるうちに下山したかったが、最後の1ピッチはついにヘッドライトの出番となる。奥胎内橋を足下に見て、最後のポコをようやく登り返し、急な斜面を下り終え、吊り橋をわたると、ようやくきっちりみっちり6時間の尾根歩きでこの山行を終える。

温泉

満身創痍の体を温泉で癒すべく、大急ぎで片づけて車を走らせる。そして、胎内温泉についた時間は20時ちょうど。入口に行くと、最終入場時間は20時との案内。何とか入れてもらえないかと、フロントのお兄ちゃんに「ダメですか?」と訪ねると、「20時までですので」とつれない返事。がっくりと肩を落として車に戻る。隣のコンビニで買い物をし、道路地図を立ち読み(ぉぃぉぃ)。帰り道にある温泉をチェックする。時間も時間だけに、半ば諦めつつ山道を走らせる。そして、関川の道の駅に温泉があり、22時まで入浴可能となっており、ようやく温泉にありつけた。

混み合う温泉での汚れを洗い流し、1時間半でおやぶんの実家に到着。柔道と福原愛の試合を観戦し、就寝する。既に日付は変わってようやく長く濃密な一日を終える。

Usertime : 0.08 / Systemtime : 0.06