日高山脈全山縦走 芽室岳~楽古岳
日高の全山縦走をするなら、前からこの季節だと思っていた。この季節なら硬く締まった雪稜の日高を駆け抜ける事が出来る。支稜にはいっさい目もくれず、夜明け前から行動を開始し、できる限り距離を稼ぎ、とにかく進める所まで進もうというマラソン山行であった。
日高の全山縦走をするなら、前からこの季節だと思っていた。この季節なら硬く締まった雪稜の日高を駆け抜ける事が出来る。支稜にはいっさい目もくれず、夜明け前から行動を開始し、できる限り距離を稼ぎ、とにかく進める所まで進もうというマラソン山行であった。
とーのさんの白ミラで出発。芽室の警察署で計画書を提出した後、新嵐山スキー場に車を残置。そこからタクシーで伏美山荘へと向かう。この時、車のことを警察にもスキー場の人にも許可を取っていなかったので、スキー場の人にご迷惑をかけることになる。本当にごめんなさい。
さて、我々はタクシーで林道を上がっていく。除雪は小屋の手前2km手前まで入っていた。しかし、除雪が入っていない時は、かなり歩く羽目になりそうだ。長い林道にはいる時は、事前に営林署に確認を取っておくのは基本中の基本だ。
伏美小屋は三角形のシンプルな作りだが、中は意外と広く、快適だ。ただ、夜中に枕元をネズミが走り、メンバーが気になって眠れなかったそうだ。わたしは、ネズミよりも、ネズミだ何だと騒いでるメンバーの方が気になっていたが・・・
時刻 | 場所 | 行動 |
---|---|---|
03:00 | 起床 | |
04:00 | 出発 | |
08:10 | 伏美岳 | |
12:40 | ピパイロ岳 | |
14:35 | Co1793コル | C1 |
これから先、長い道のりが待っているので、出来る限り早起きを心がける。今朝は、朝から焼きそば。ちょっと重たい感じがするが、おやぶんは「たりねぇ」とぼやいていた。
朝の冷え込みで、雪面がガチガチに凍り付いている。登山口からアイゼンをつける。朝一での日高の急登はかなり効く。体力自慢のおやぶんがいきなりバテ始め、すぐに休憩を取る。朝飯が足りなかったせいだろうか。読図をして、現在位置を確認していると、とーのさんが地図とコンパスを車に置いてきて、おやぶんは地形図に磁北線を引いていないことが発覚する。
日が昇り、雪が腐ってきたので、ワカンを履くことにする。ところが、とーのさんのワカンがすぐに壊れてしまう。簡単には修理出来そうにないので、とーのさんはワカンなしで行くことになる。一人苦労しているとーのさんを見ていると、一見役に立っているのか判らないワカンも、それなりに効果があるのだと実感出来る。
伏美岳まで、朝一で重い荷を背負ってこの傾斜でこの高度差はかなりつらいものがある。しかし、ピークからのすばらしい展望はそれまでのつらい行程を一気に忘れさせてくれる。遙か南に1839峰の鋭鋒までが見える。ワカンを履いたまま、下り始めると、いきなり足を引っかけて滑落する。幸い、すぐに止ったが、これは不用意だった。すぐさま皆のワカンを外させ、アイゼンに履き替える。
ピパイロ岳は思った以上に岩が露出していた。馬の背は噂以上に細く、後に歩く七ツ沼の背よりも細く感じる。斜面は一気に沢底まで落ち込んでおり、強烈な高度感だ。1ヶ所、どうしても越えられない岩場があって、左側から巻く。垂直に感じられる壁にへばりついて、慎重に通り過ぎる。西峰に立ってほっと一息。主稜線に続く斜面を駆け下り、1967峰とのコルに幕営する。
この日はいきなりの10時間行動。みなさんお疲れさまでした。
時刻 | 場所 | 行動 |
---|---|---|
03:00 | 起床 | |
04:20 | 出発 | |
07:20 | 北戸蔦別岳 | |
08:40 | 戸蔦別岳 | |
11:40 | 幌尻岳 | |
12:25 | 幌尻岳直下 | C2 |
今日は少し風が強い。天気図によると、気圧の谷が近づいているようだから、そのためだろう。今日も長いのでとっとと行く。一九六七峰から P1940 あたりは背が高くてとても眺めがよい。一九六七峰の下りの岩場でいくつか面倒な巻きをする。
アイゼンをバリバリ効かせて、走るように北戸蔦別を通過する。1881峰周辺の岩場も滑落しないように適当に巻きながら進む。岩場を過ぎ、戸蔦別に向かう途中、北大山スキー部の人たちとすれ違う。スキーを担いでいる。今まで我々が歩いてきたところをずっとシートラで行くのかと思うと、ちょっとクレイジーな連中だと思った。
戸蔦別岳は見た目の通り、一気に上がり、一気に下っている。幌尻の往復でまたここを登り返さねばならないだろうか。ちょっとうんざりする。七ツ沼の背は七ツ沼側が垂直に落ちている。反対側の斜面によって通過する。この辺りから、雲行きが怪しくなってきた。戸蔦別から幌尻のピークはそう遠くなく見えたので、ガスがかかる前には到着出来るだろうと思っていたが、ピークが近づくに連れてガスはみるみる濃くなって、視界が悪化。悪いことに、幌尻のピーク前後は細かいポコがあり、何度となくニセピークにだまされる。これはつらい。ニセピークのたびにスパートをかけるものだから、本当のピークにつく頃には皆バテバテになっていた。
ピークはもう、完全にガスの中で何も見えない。当時私は、晴れたピークに必要以上にこだわっていたので、これは納得がいかない。昨日の天気図の状態から、気圧の谷は今晩中に通り過ぎるという判断を下し、メンバーの反対を押し切り、ピーク直下の斜面を開拓し、幕営する。
しかし、さすがに春とはいえ、ツェルトでこの高度の天場は厳しかった。強風でツェルトの一部は破け、入口のファスナーは崩壊。雪が吹き込んできて、グロッキー状態になる。正直、ここでの幕営は誤った判断だった。私は気持ちが悪くなって、夕飯ものどを通らなくなってしまった。
時刻 | 場所 | 行動 |
---|---|---|
03:00 | 起床 | |
05:25 | 幌尻岳 | 登頂 |
05:45 | 出発 | |
06:40 | 七ツ沼カール | |
12:30 | カムイ岳 | |
13:00 | カムイ岳北東尾根 | C3 |
一晩苦しんだかいもあって、今日は風が残るものの、青空が広がっている。メンバー3人は風のせいで少しやる気が失せているようで、出発が少し遅れてしまう。他のメンバーはわざわざもう一度ピークを踏むつもりはないらしいので、出発の準備をしている隙に私一人でピークアタックをする。なぜかピークでは風がなく、気持ちよい。もしかしたら、天場がたまたま風の通り道だったのかもしれない・・・
戸蔦別岳は、やはり登り返すのはやめにして、七ツ沼カールに降りてしまうことにする。七ツ沼まで高度さ200m位の斜面を一気に尻滑りで滑り降りる。七ツ沼は確かに気持ちのいいところだ。出発したばかりだが、ここに天張ってしまいたい衝動にかられる。
主稜に戻ってすぐに、単独行のにぃちゃんに出会う。「すごい」などの感想が漏れるところは、当時の若さを物語っている。この日の行動は比較的楽なはずだったが、昨夜の天場で疲れが取れていないせいか、意外にもとーのさんがバテバテになってしまって、予想以上に時間がかかってしまった。
カムイ岳に近づくと、人影がちらほらと見え始めた。北東尾根に到着すると、(日高の山奥にしては)ものすごい数の人が居る。幕営し、それらの人たちと会話を交わしていると、その中の一人が、余った食料と、穴の空いてしまったビールを分けてくれた。びーるは穴が空いて、少々気が抜けていたが、思いがけない一滴は格別だった。
朝起きて、外を見ると、雪がしんしんと降っていたので、すぐに停滞と決めてしまう。今まで大急ぎで走ってきたので、1日ぐらい良いだろう。昼からトランプを始めるが、雪目になったらしく、まともに目を開けていられない。結局、この日は1日寝て過ごすことになってしまった。申し訳ない。しかし、この停滞で休養がとれて、結果的に良かったかもしれない。
時刻 | 場所 | 行動 |
---|---|---|
03:00 | 起床 | |
04:45 | 出発 | |
09:45 | エサオマントッタベツ岳 | |
10:55 | 札内分岐 | |
14:55 | 札内岳 | |
16:10 | Co1560コル | C5 |
天候はかんばしくなかったが、昨日の分も取り返さなければならないので、渋々出発する。エサオマントッタベツ岳まで、稜線には東側に巨大な雪庇が発達している。広い雪面の、どの辺が雪庇の切れ目なのかさっぱり判らない。調子に乗って歩いていると、思いっきり亀裂に突き刺さる。亀裂は雪の下に隠れ、稜線に沿って延々と続いている。皆に笑われながら引っ張り上げてもらう。幸い雪庇崩壊を引き起こさず、笑い話ですんで良かった。
この日は前日に降り積もった雪のせいで、ラッセルがキツく、ペースが上がらない。ピーク感のないエサオマンを通過。北東カールのカール壁に注意しながら札内JPから、資料線へ向かう。この辺りを過ぎるまでガスが濃く、手探り状態で進んでいく。札内岳手前のコルを過ぎた頃にガスが切れ始め、ふと後ろを振り返ると、札内川に雪崩の走った跡があった。昨日降った雪が早速表層雪崩を起こしているようだ。
札内岳の登りで、傾斜が増してきたのでメンバーにアイゼンを着用するように指示するが、私はついついそのまま進んでしまう。雪面はみるみる硬くなり、直下ではツルツルになってしまった。しかし、この傾斜では今さらアイゼンをつける体勢すらとれない。仕方がないので、ピッケルのみを頼りにピークまで上がる。これはちょっと怖かった。ピークでようやくアイゼンをつける。
札内のピークは狭く、皆が座るにはちょっと心許ない。下りは非常に急で、バックステップで慎重に下る。
時刻 | 場所 | 行動 |
---|---|---|
02:00 | 起床 | |
03:50 | 出発 | |
12:30 | 林道 | |
14:00 | 下山 |
ついに最終日。出来るだけ早めに下山したいので、気合いの2時起き。日の出とともに出発する。最終日といえども、アップダウンはまだまだ続く。しつこいポコにうんざりしながら、意外と遠い勝幌カチポロに到着する。
今日は久々によい天気でとても気持ちがいい。さすが日高の展望台と言うだけあって、勝幌からの眺めはこの山行の中でも最高の物だった。途中何度もくじけそうになったが、ここまで来た甲斐があった。いつまでもそこにいたいという気持ちを押し殺して、ピークを後にする。沢に降りると、雪崩にやられそうな気がしたので、本来の登山道沿いのルートを取りやめ、長い北尾根を下ることにする。案の定、登山道方面に雪崩の痕跡が見える。
北尾根は思った以上に長かったが、みんな下山ダッシュでかけ降りる。林道に出て、登山ガイドの安井さん邸まで歩く。安井さんにスキー場まで送ってもらう。長くてつらい山行だったけれど、それ以上にたのしい山行だった。