当初この山行は、ペテガリ西沢を遡行した後、キムクシュベツ川三股まで往復する計画だった。しかし、かねてからの悪天と増水、雨天を告げる天気予報に翻弄され、相変わらずのペテガリ山荘の魔力に負けるという心の弱さを露呈して終わるのだった。そして、計画後半の日程は皮肉な好天が続いているのでありました。
行程
2013年09月06日(金)
8月後半からいわゆる不安定な天気と言うヤツに翻弄され、なかなか沢へ足が向かなかった。行っている人は隙を見て行っているので、決してどこにも行けないというわけではないのだが、どうにも思い切りが悪いのがダメなところである。そんなわけで、前日までの累加雨量で100mm近い雨を記録し、翌日から2日ほど雨の予報の中部日高へとりあえず行ってみることにした。しかし、結果としてはやはり一日遅らせた方が完遂できたと思われるので難しい物である。
苫小牧を出発し、いつものように三石の道の駅で車中泊。夏休みの大学生と思われるチャリダーが売店の軒下を占拠している。自転車の後ろに「日本一周中」という旗を立てているのは一体何のアピールなんだろう。
2013年09月07日(土) 三石ダム~高見ダム~サッシビチャリ川
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
04:30 | 道の駅三石 | 起床 | |
06:30 | 曇 | 美河林道ゲート | 出発 |
08:30 | 高見橋 | ||
09:25 | コイボクシュシビチャリ川分岐 | ||
10:35 | ペテガリ山荘 | ||
11:15 | サッシビチャリ林道入口 | 自転車残置 | |
12:10 | サッシビチャリ川 Co410 | 入渓 | |
14:10 | 雨 | ペテガリ西沢出合 | C1 |
林道
なにやら元浦川林道が工事中という話なので、今回は三石ダムからアプローチする。三石川沿いの道は通行不能なので、鳧舞から歌笛を経由してモモカリ川の峠を越えて三石ダム左岸沿いの道に入る。道は案外整備されていて元浦川林道よりはるかに走りやすい。高見ダムへ乗っ越す美河林道入口でゲートとなるのでここに車を駐めて自転車に乗り換える。ゲートの鍵はダイヤル式になっていたので、3時間ぐらい粘れば開けられるかもしれない。
今回は食料が多いので、猛烈に重たい。峠まではひたすら登り。コイボク以来2度目だがやっぱりしんどい。峠からは急な坂道をスピードを殺しながら下り1時間。更に1時間で高見橋ゲートとなった。やはりここもダイヤル式だが、道は相当荒れているのでそれなりの車でないと走ることは厳しいだろう。
更に1時間ほどでコイボクシュシビチャリ川を渡るが、川は真っ茶色に濁流していた。正直これは遡行可能なレベルとは思えなかったのでここで引き返すことも考えたが、とりあえずペテガリ山荘まで足を伸ばすことにした。
ところが、サッシビチャリ川にさしかかると思ったほど水量は多くなく、水も澄んでいる。同じ山域なのにここまで違う物だろうか。とりあえずペテガリ山荘まで足を伸ばし、最終日の食料を残置してサッシビチャリ川出合まで戻る。
出合に自転車を残置し、左岸林道を進む。去年二度も歩いたので特に迷うことなく入渓地点に到着。なんだかんだ言ってやっぱり増水気味ではある。
サッシビチャリ川
函を高巻いて渡渉を繰り返すと、案の定雨が降り始めた。はじめはポツポツと小雨だったが、あともうちょっとで西沢出合というところで結構な本降りになる。ここまで来たところを引き返してまた明日来る面倒くささと、雨の当たらないペテガリ山荘の快適さの狭間で揺れ動いた末に引き返そうと決めて歩き始めたところで雨が弱まるというおきまりのパターンで、結局思い直して出合まで足を進めた。
じめじめしてあまり快適ではないが、西沢の左岸をひと張り分苅り開いて焚き火に火を入れる。もしかしてウン場だったのかも知れず、時々アレなにおいがしてきた。イワナは普通サイズを一匹だけ釣り上げた。
何とか明日も順調に進めると良いなと思っていた矢先、またしても雨が降り始めツエルトの下に逃げ込む。雨は時折強くなってまんじりともしない夜を過ごした。天気予報は明日の晩も雨であると告げている。
2013年09月08日(日) 西沢~山頂~西尾根~小屋
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
04:30 | 曇 | 起床 | |
05:45 | 出発 | ||
06:40 | Co550 | ||
07:50 | Co630 | ||
09:00 | Co750 | ||
10:10 | Co840 大滝の上 | ||
11:10 | Co1015 | ||
12:15 | Co1200 | ||
13:25 | Co1440 | ||
14:45 | 霧 | ペテガリ岳 | |
15:45 | |||
20:10 | ペテガリ山荘 | C2 |
下部ゴルジュ (Co490-605)
朝方ようやく雨が止んだが、昨日の疲れは大してとれていない気がする。ラジオではなにやら東京オリンピックが決定だとかなんだとか言っているが、そんなクソ下らないことよりも気象情報をしっかりと伝えて欲しいもんだ。
今日は泳ぎがあるかも知れないので、少し厚めの衣類とする。アクアボディの上下、クリマプレン・パドリングパンツ(廃番)、雨具上下、ライフジャケットというスタイル。ちなみに全部モンベル製。
ペテガリ西沢は20年前にリーダーとして初めて来た日高の沢である。そのときにこれでもかと言うほど情報収集をしたのでだいたいのことは頭に入っている。序盤のゴルジュは無理に中を進んだところで、直登不能な函滝に行く手を阻まれて引き返して高巻きをさせられるのがオチであることは重々承知しているので、先に滝が見えたら迷わず巻きに入る。
1つ目は Co500 の屈曲点より。右岸に明瞭な巻き道が付いている。大きな滝をひとつ越えて一端沢身に戻るがすぐに樋状の滝があるので更に右岸を少し低めに高巻く。20年前はここで滑落して死にかけているので慎重に。
平水時であればなんてことはないと思われる函が続くが、昨夜は思ったほど増水はしなかったとは言え、かねてから絶賛増水中である。ちょっとした瀞を進むのも一筋縄ではいかない。
2つ目は Co525 の屈曲点前後。普通は泳いで小滝を攀じってから登れないって言う話になると思うが、私の泳力では1ミリも前に進まず、早々に右岸高巻きに入る。下には渦巻く釜が見える。ここは水量が少なければ内部遡行するパーティもいるのかな。
3つ目は Co540 の屈曲点。右岸は岩峰状になっている。岩峰状基部のテラスから奥のルンゼを攀じって高巻く。更に函滝がひとつ見えるのでその先で降りる。この沢は出合からここまでがひとつの大ゴルジュと言っていいだろう。
沢は一端少し開けて簡単な滑がしばらく続く。しかしそれもほんのつかの間で、すぐに狭いゴルジュとなって淵が連続し、 Co560 の淵でついに一泳ぎさせられる。20年前の印象もあって、さほど苦労しないだろうと思っていたが、増水気味と言うこともあって深いゴルジュの中でジリジリした緊張が続く。
Co590 三股は正面に真ん中の枝沢が数段の樋状の滝となって垂直に落ちてくるのが目に飛び込んでくる。本流は左に直角に曲がって飛沫が飛んでいるのだけが見える。ここも右岸の側壁から高巻くが、それまでの巻きに比べると壁が立っていて、リッジ状を登るのが少しだけイヤらしい。下りも何とかクライムダウンできたが、余裕が無い時はラッペルの方がいいだろう。
中流部 (Co605-740)
Co605 ルベツネ山南峰西面沢出合を過ぎ、ゴルジュの奥にハングして落ちる滝が見える。これも迷わず右岸から高巻く。
右岸が崖地形となった Co630 を過ぎるとツルツルのU字ゴルジュとなる。ここは突っ張りと微妙なへつりで突破する。小さいながらも渦巻く釜を下に見ての一歩はかなり微妙。ここはわりと右岸崖地形を高巻いているパーティが多いようだが、この沢で一番バランスを要求される登攀を楽しめる場面なので、是非内部突破してもらいたい。
これを抜けると沢は突如としてだだっ広い河原となる。 Co640 から Co695 まで薪も豊富で抜群のビバークポイントだ。ただし、早い時期には雪渓なんだろう。
Co695 の釜を持った滑滝を右岸から上ると、その先にはツルツルの釜滝が更に3段続いて四段の釜滝となっていた。2段目からは左岸側壁をへつって通過する。他のパーティは右岸カンテを登ってから巻いているようだが、その発想はなかった。
Co720 の長い瀞は左岸をへつって樋状の滝まで行き、少し躊躇したが思い切って左岸にジャンプしてまたぐ。更に続く滝は右岸をへつってから小さく高巻いた。
ペテガリ岳西面直登沢 (Co740-源頭)
ルベツネ山南峰南面直登沢は滝となって合流している。いつか機会があればここも踏査してみたい。
ゴーロとチョックストンの多いゴルジュを進むと、 Co770 で三段の滝となる。1つ目は右岸カンテを登り、ふたつめのハング状は右岸ルンゼ状よりトラバース。3つ目は右岸枝沢の滝を登ってから草付きをトラバースする。難しくはないが、少しだけイヤらしい。ちなみに、3つ目の滝を平水時(by BMC)と比べてみたら違う滝みたいだ。
ここを抜けると Co780 二股となる。その先にいよいよ滝記号の大滝だ。左岸の斜めバンドから登れそうだが、そこまでのトラバースと、最後の抜けがちょっと嫌らしそうに見えるので、正面のルンゼから巻いてしまおうかと進むが、ルンゼの壁はどんどん立って余計に悪そうだ。
結局戻って真ん中辺から足下をクリーニングしつつトラバースして左岸洞穴状下のテラスにでる。そこから延びるバンドを水際まで左上してのっぺりとしたフェースを直上する。最後は難しくないが、高度があってホールドが細かいのでヒヤヒヤする。
すぐに樋状の二段が続くが、これは左岸カンテ上を岩登りで越える。さらに3段目が続く。これは昨年の帯労さんの記録で直瀑と記録されているが、近づくとわりと傾斜が緩く登れそうだ。右岸水際に沿って直登していくが、最後の抜けがちょっと微妙。水圧が強く、水流に触ると吹き飛ばされそうだ。心を落ち着かせ、体制を整えて手を伸ばすとわりとかっちりとしたホールドがあって上へ抜ける。
Co880 付近には小さいながらもいいビバークポイントがある。ここから先は沢幅が広がり、無数の滑滝を好きに登っていける。ただ、惜しむべきは20年前はとても美しい沢という印象だったが、思っていたよりもガレやデブリが多い。実際、20年前と同じ場所の写真を見比べるとかなり荒れている印象だ。
ふたつめの滝記号は左岸水際を直登する。どちらかと言えば簡単な部類。続く2段目3段目も右岸左岸と直登する。滑滝が途切れなく続き、全て快適に直登していく。
Co1160 の下部が少しハングした滝は右岸ルンゼを少し登って滝身にトラバースしてから上部を直登した。続く一条に奔流して落ちる滝は右岸水際を直登するが、上部でホールドが乏しくなり行き詰まる。一端水流内にスタンスを求める一歩がかなり危うかった。それでも直上するホールドはなく、右岸側壁を無理矢理攀じって植生に逃げた。はじめから植生を巻いておけば難しくない。
その後もひたすら滝が続くが特に難しい物は無く、徐々にガレが増えてきた。やっぱり20年前に比べると少し荒れている。最後の二股は右が深いがガレで涸れているため、水流を求めて左に入るが結局すぐに涸れたので右の方が良かったかも知れない。
ペテガリ岳西尾根コース
30分ほどハイマツを漕いでピークの少し北側に出た。今日は予定ではCカールに降りるはずだった。しかし、天気予報では今夜も雨を予報している。正直言って二晩続けて雨の夜を過ごすのはうんざりだ。しかも、ペテガリ西沢が増水のせいもあって思った以上にお腹いっぱいになってしまった。ピークに泊ることも考えたが、水の量が心許ない。気温もぐんぐん下がってきて、濡れた体で一晩耐えられる自信が無い。そうこうしているうちに小雨も降り出した。とか何とか言って結局一番大きかったのはなんと言ってもペテガリ山荘の魔力である。
ついに靴を履き替え、西尾根を下ることにした。正直この尾根を下るのはうんざりだが、そのつらさはねのけるペテガリ山荘の魔力の恐ろしさ。しかし、皮肉な物で下り始めると雲が切れ、ルベツネ山やペテガリ岳が見え始めたではないか。ラジオの天気予報もよくよく聞くと、そんなに酷くなる感じではなくなっている。なんだかなあ。敗退という言葉は大嫌いだけど、えもいわれぬ敗北感にさいなまれる。
とか何とか言っててももう下り始めたので仕方がない。ただひたすらに長い尾根道を下るのみである。あげく、やっぱりヘドラ行動になる。結局去年同様4時間半でペテガリ山荘に到着した。
山荘は貸し切り。水道の水が止まっていたので、横の小沢から水を確保する。ストーブに火を入れようとすると、相変わらずアルミホイルだの空き缶だのが大量に入っている。本当にストーブでアルミが燃えると思っているのだろうか、本当のバカなんだろうか。パンツ一丁になって服を干し、一応飯の下準備はしたが火を入れることはなく、つまみと酒を食らって毛布をかぶった。長い一日だった。
2013年09月09日(月)
時刻 | 天候 | 場所 | 行動 |
---|---|---|---|
08:40 | 晴 | 起床 | |
04:40 | 晴 | 出発 | |
15:20 | サッシビチャリ林道入口 | 自転車回収 | |
16:50 | 高見橋 | ||
18:45 | 美河林道ゲート | 下山 |
気がつくと日はすっかり高くなっていた。疲労困憊で動く気がしないが、とりあえず昨日準備した飯を炊く。が、水つもりに失敗してふにゃふにゃの飯になってしまいなかなか咽を通らない。コーヒーを入れて何とか流し込む。
今日は釣りでもしてもう一泊していこうかとも思っていたが、結局なんだかんだで帰ることにした。暑い日中は避けて夕方出発することにして、例によって小屋の掃除をする。
一段落して外を観察すると、登山道の脇で水道のホースが外れていた。雨でホースが外れたのかな?帰る準備をしていると、森林管理署の人がホースの状態を見にやってきた。
パッキングをしてザックを担ぐと、予定の日数を半分も消費していないので来た時とあまり重さが変わらない。やっぱりもう何泊かしていこうかなとか思う。
サッシビチャリ川出合まで徒歩で40分。ベニカル沢を過ぎてコイボク出合まではしばらくは下りが続く。コイボクの濁流はだいぶ収まっていたが、まだ少し濁っていた。
峠の基部からヘドラ行動になって、峠からの下りは真っ暗になった。帰りも結局まる4時間かかってゲートに到着した。車のワイパーには林道走行のパンフレットとポケットティッシュが挟まっていた。
三石の道の駅で汗を流して帰路についた。
雑感
ペテガリ西沢に関しては、時折初版の!!*に戻してもいいのではないかという意見を聞く。たしかに、技術的には他の!!!クラスの沢と比べるとやや見劣りする感は否めない。しかし、今回は無駄に重い荷物と増水気味の水量によって!!!に見合った充実感を得られた。もしかしたら私の衰えもあるかもしれない・・・。